マダム・ボーンズは黙だまってフィッグばあさんを見下ろした。ファッジはまったくばあさんを見もせず、羊よう皮ひ紙しをいじくり回していた。最後にファッジは目を上げ、突つっかかるように言った。「それがおまえの見たことだな」
「それが起こったことで」フィッグばあさんが繰くり返して言った。
「よろしい」ファッジが言った。「退たい出しゅつしてよい」
フィッグばあさんは怯おびえたような顔でファッジを見て、ダンブルドアを見た。それから立ち上がって、せかせかと扉とびらに向かった。扉が重い音を立てて閉まるのをハリーは聞いた。
「あまり信用できない証しょう人にんだった」ファッジが高たか飛び車しゃに言った。
「いや、どうでしょうね」マダム・ボーンズが低く響ひびく声で言った。「吸魂鬼が襲うときの特とく徴ちょうを実に正確に述べていたのも確かです。それに、吸魂鬼がそこにいなかったのなら、なぜいたなどと言う必要があるのか、その理由がない」
「しかし、吸魂鬼がマグルの住む郊外こうがいをうろつくかね そして偶然ぐうぜんに魔法使いに出くわすかね」ファッジがフンと言った。「確率かくりつはごくごく低い。バグマンでさえ、そんなのには賭かけない――」
「おお、吸魂鬼が偶然そこにいたと信じる者は、ここには誰もおらんじゃろう」ダンブルドアが軽い調子で言った。
ファッジの右側にいる、顔が陰かげになった魔女が少し身動きしたが、他の全員は黙だまったまま動かなかった。
「それは、どういう意味かね」ファッジが冷ひややかに聞いた。
「それは、連中が命令を受けてそこにいたということじゃ」ダンブルドアが言った。
「吸魂鬼二体にリトル・ウィンジングをうろつくように命令したのなら、我々のほうに記録きろくがあるはずだ」ファッジが吠ほえた。
「吸魂鬼が、このごろ魔法省以外から命令を受けているとなれば、そうとはかぎらんのう」ダンブルドアが静かに言った。「コーネリウス、この件についてのわしの見解けんかいは、すでに述べてある」
「たしかに伺うかがった」ファッジが力を込めて言った。「しかし、ダンブルドア、どこをどうひっくり返しても、あなたの意見は戯言たわごと以外の何物でもない。吸魂鬼はアズカバンに留とどまっており、すべて我々の命令に従って行動している」
「それなれば」ダンブルドアは静かに、しかし、きっぱりと言った。「我々は自みずからに問うてみんといかんじゃろう。魔法省内の誰かが、なぜ二人の吸きゅう魂こん鬼きに、八月二日にあの路地に行けと命じたのか」
この言葉で、全員が完全に黙だまり込こんだ。その中で、ファッジの右手の魔女が身を乗り出し、ハリーはその顔を初めて目にした。