ハリーは足元を見つめた。心臓が不自然な大きさに膨ふくれ上がったかのようで、肋あばら骨ぼねの下でドクンドクンと鼓動こどうしていた。尋じん問もん手続きはもっと長くかかると思っていた。自分がよい印いん象しょうを与えたのかどうか、まったく確信が持てなかった。まだほとんどしゃべっていない。吸きゅう魂こん鬼きのことや、自分が倒れたこと、自分とダドリーがキスされかかったことなど、もっと完全に説明すべきだった……。
ハリーは二度ファッジを見上げ、口を開きかけた。しかし、そのたびに膨ふくれた心臓が気道きどうを塞ふさぎ、ハリーは深く息を吸っただけで、また下を向いて自分の靴くつを見つめるしかなかった。
そして、囁ささやきがやんだ。ハリーは裁さい判ばん官かんたちを見上げたかったが、靴ひもを調べ続けるほうがずっと楽だとわかった。
「被ひ告こく人にんを無む罪ざい放ほう免めんとすることに賛成の者」マダム・ボーンズの深く響ひびく声が聞こえた。ハリーはぐいと頭を上げた。手が挙あがっていた。たくさん……半分以上 息を弾はずませながら、ハリーは数えようとした。しかし、数え終る前に、マダム・ボーンズが言った。「有罪ゆうざいに賛成の者」
ファッジの手が挙がった。そのほか五、六人の手が挙がった。右側の魔女と、二番目の列の、口ひげの立派な魔法使いと縮ちぢれっ毛の魔女も手を挙げていた。
ファッジは全員をざっと見渡し、何か喉のどに大きな物が支つかえたような顔をして、それから手を下ろした。二回大きく息を吸い、怒りを抑おさえつける努力に歪ゆがんだ声で、ファッジが言った。
「結構けっこう、結構……無罪放免」
「上じょう々じょう」ダンブルドアは軽快けいかいな声でそう言うと、さっと立ち上がって杖つえを取り出し、チンツ張ばりの椅子を二に脚きゃく消し去った。「さて、わしは行かねばならぬ。さらばじゃ」
そして、ただの一度もハリーを見ずに、ダンブルドアは速すみやかに地下室から立ち去った。