足音を聞きつけて、その男がこちらを向いた。その男もはっと会話を中ちゅう断だんした。冷たい灰色の目を細め、ハリーの顔をじっと見た。
「これは、これは、これは……守しゅ護ご霊れいポッター殿」ルシウス・マルフォイの冷たい声だった。
ハリーは何か固いものに衝しょう突とつしたかのように、うっと息が止まった。その冷たい灰色の目を最後に見たのは、「死し喰くい人びと」のフードの切れ目からだった。その嘲あざける声を最後に聞いたのは、暗い墓場でヴォルデモートの拷問ごうもんを受けていたときだった。そのルシウス・マルフォイが、臆面おくめんもなくハリーの顔をまともに見ようとは。しかも所もあろうに魔法省にマルフォイがいる。コーネリウス・ファッジがマルフォイと話している。信じられなかった。ほんの数週間前、マルフォイが「死喰い人」だと、ファッジに教えたばかりだというのに。
「たったいま、大臣が、君が運良く逃にげ遂おおせたと話してくださったところだ、ポッター」マルフォイ氏が気取った声で言った。「驚おどろくべきことだ。君が相変わらず危あやういところをすり抜けるやり方ときたら……じつに、蛇へびのようだ」
ウィーズリーおじさんが、警告けいこくするようにハリーの肩をつかんだ。
「ああ」ハリーが言った。「ああ、僕は逃げるのがうまいよ」
ルシウス・マルフォイが目を上げてウィーズリー氏を見た。
「なんとアーサー・ウィーズリーもか ここに何の用かね、アーサー」
「ここに勤めている」おじさんが素っ気なく言った。
「まさか、ここではないでしょう」
マルフォイ氏は眉まゆをきゅっと上げ、おじさんの肩越しに後ろの扉とびらをちらりと見た。
「君は地下二階のはず……マグル製せい品ひんを家にこっそり持ち帰り、それに魔法をかけるような仕事ではありませんでしたかな」
「いいや」ウィーズリーおじさんはバシッと言った。ハリーの肩に、いまやおじさんの指が食い込んでいた。