数日が経たち、ハリーは、このグリモールド・プレイス十二番地に、自分がホグワーツに帰ることを心底しんそこ喜んではいない人間がいることに気づかないわけにはいかなかった。シリウスは、最初にこの知らせを聞いたとき、ハリーの手を握にぎり、みんなと同じようににっこりして、うれしそうな様子を見事に演えんじて見せた。しかし、まもなくシリウスは、以前よりも塞ふさぎ込み、不ふ機き嫌げんになり、ハリーとさえも、あまり話さなくなった。そして、母親が昔使っていた部屋に、ますます長い時間バックビークと一いっ緒しょに閉じこもるようになった。
数日後、ロン、ハーマイオニーと四階の黴かびだらけの戸棚とだなを擦こすりながら、ハリーは二人に自分の気持の一端いったんを打ち明けた。
「自分を責めることはないわ」ハーマイオニーが厳きびしく言った。「あなたはホグワーツに帰るべきだし、シリウスはそれを知ってるわ。個人的に言わせてもらうと、シリウスはわがままよ」
「それはちょっときついぜ、ハーマイオニー」指にこびりついた黴かびを刮こそげ取ろうと躍起やっきになって、顔をしかめながらロンが言った。「君だって、この屋敷やしきに独ひとりぼっちで、釘くぎづけになってたくないだろう」
「独りぼっちじゃないわ」ハーマイオニーが言った。「ここは『不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だん』の本部じゃない シリウスは高望たかのぞみして、ハリーがここに来て一いっ緒しょに住めばいいと思ったのよ」
「そうじゃないと思うよ」ハリーが雑巾ぞうきんを絞しぼりながら言った。「僕がそうしてもいいかって聞いたとき、シリウスははっきり答えなかったんだ」
「自分であんまり期待しちゃいけないと思ったんだわ」ハーマイオニーは明晰めいせきだった。「それに、きっと少し罪ざい悪あく感かんを覚えたのよ。だって、心のどこかで、あなたが退学になればいいって願っていたと思うの。そうすれば二人とも追放ついほうされた者同士になれるから」
「やめろよ」ハリーとロンが同時に言った。しかし、ハーマイオニーは肩をすくめただけだった。
「いいわよ。だけど、私、ときどきロンのママが正しいと思うの。シリウスはねえ、ハリー、あなたがあなたなのか、それともあなたのお父さんなのか、混乱こんらんしてるときがあるわ」
「じゃ、君は、シリウスが少しおかしいって言うのか」ハリーが熱くなった。
「違うわ、ただ、シリウスは長い間独りぼっちで寂さびしかったと思うだけ」ハーマイオニーがさらりと言い切った。
このときウィーズリーおばさんが、三人の背後から部屋に入ってきた。