夏休みの終りが近づくと、ハリーはホグワーツのことを、ますます頻繁ひんぱんに思い出すようになっていた。早くハグリッドに会いたい。クィディッチをしたい。薬草学の温室に行くのに、野菜畑をのんびり横切るのもいい。この埃ほこりっぽい黴かびだらけの屋敷やしきを離はなれられるだけでも大だい歓かん迎げいだ。ここでは、戸棚とだなの半分にまだ閂かんぬきが掛かかっているし、クリーチャーが、通りがかりの者に暗がりからゼイゼイと悪態あくたいをつくし。もっとも、シリウスに聞こえるところではこんなことは何も言わないように、ハリーは気遣きづかった。
事実、反ヴォルデモート運動の本部で生活していても、とくにおもしろおかしいわけではなかった。経験してみるまでは、ハリーにはそれがわからなかった。騎き士し団だんのメンバーが定期的に出入りして、食事をしていくときもあれば、ときにはほんの数分間のひそひそ話だけのこともあった。しかし、ウィーズリーおばさんが、ハリーや他の子供たちの耳には、本物の耳にも「伸のび耳みみ」にも届とどかないようにしていた。誰も彼も、シリウスでさえも、ここに到とう着ちゃくした夜に聞いたこと以外は、ハリーは知る必要がないと考えているかのようだった。
夏休み最後の日、ハリーは自分の寝室しんしつの洋よう箪だん笥すの上を掃はいて、ヘドウィグの糞ふんを掃除そうじしていた。そこへロンが、封筒を二通持って入ってきた。
「教科書のリストが届いたぜ」
ロンが椅子を踏ふみ台にして立っているハリーに、封筒を一枚投げてよこした。
「遅おそかったよな。忘れられたかと思ったよ。普通はもっと早く来るんだけど……」
ハリーは最後の糞をゴミ袋に掃はき入れ、それをロンの頭越しに投げて、隅すみの紙クズ籠かごに入れた。籠は袋を飲み込んでゲプッと言った。ハリーは手紙を開いた。羊よう皮ひ紙しが二枚入っていて、一枚はいつものように九月一日に学期が始まるというお知らせ、もう一枚は新学期に必要な本が書いてある。