「これはダンブルドアの弟でアバーフォース。このとき一度しか会ってない。奇き妙みょうなやつだったな……ドーカス・メドウズ。ヴォルデモート自身の手にかかって殺された魔女だ……シリウス。まだ髪かみが短かったな……それと……ほうれ、これがおまえの気に入ると思ったわ」
ハリーは心臓がひっくり返った。父親と母親がハリーににっこり笑いかけていた。二人の真ん中に、しょぼくれた目をした小男が座っている。ワームテールだとすぐにわかった。ハリーの両親を裏切うらぎってヴォルデモートにその居い所どころを教え、両親の死をもたらす手引きをした男だ。
「む」ムーディが言った。
ハリーはムーディの傷きずだらけ、穴だらけの顔を見つめた。明らかにムーディは、ハリーに思いがけないご馳走ちそうを持ってきたつもりなのだ。
「うん」ハリーはまたしてもにっこり作り笑いをした。「あっ……あのね、いま思い出したんだけど、トランクに詰つめ忘れた……」
ちょうどシリウスが話しかけてきたので、ハリーは何を詰め忘れたかを考え出す手間が省はぶけた。「マッド‐アイ、そこに何を持ってるんだ」そしてマッド‐アイがシリウスのほうを見た。ハリーは誰にも呼び止められずに厨ちゅう房ぼうを横切り、そろりと扉とびらを抜けて階段を上がった。
どうしてあんなにショックを受けたのか、ハリーは自分でもわからなかった。考えてみれば、両親の写真は前にも見たことがあるし、ワームテールにだって会ったことがある……しかし、まったく予よ期きしていないときに、あんなふうに突然目の前に両親の姿を突つきつけられるなんて……誰だってそんなのはいやだ。ハリーは腹が立った……。
それに、両親を囲む楽しそうな顔、顔、顔……かけらしか見つからなかったベンジー・フェンウィック、英雄として死んだギデオン・プルウェット、気が狂うまで拷問ごうもんされたロングボトム夫妻ふさい……みんな幸せそうに写真から手を振っている。永久に振り続ける。待ち受ける暗い運命も知らず……まあ、ムーディにとっては興きょう味みのあることかもしれない……ハリーにはやり切れない思いだった……。
ハリーは足音を忍しのばせてホールから階段を上がり、剥製はくせいにされたしもべ妖よう精せいの首の前を通り、やっと独ひとりきりになれたことをうれしく思った。ところが、最初の踊おどり場ばに近づいたとき、物音が聞こえた。誰かが客きゃく間まで啜すすり泣いている。