ブラック夫人の肖しょう像ぞう画がは怒り狂って吠ほえていたが、わざわざカーテンを閉めようとする者は誰もいない。ホールの騒音でどうせまた起こしてしまうからだ。
「――穢けがれた血 クズども 芥あくたの輩やから――」
「ハリー、私とトンクスと一いっ緒しょに来るのよ」ギャーギャー喚わめき続けるブラック夫人の声に負けじと、おばさんが叫さけんだ。「トランクとふくろうは置いていきなさい。アラスターが荷物の面倒を見るわ……ああ、シリウス、何てことを。ダンブルドアがだめだっておっしゃったでしょう」
熊のような黒い犬がハリーの脇わきに現れた。ハリーが、ホールに散らばったトランクを乗り越え乗り越え、ウィーズリーおばさんのほうに行こうとしていたときだった。
「ああ、まったく……」ウィーズリーおばさんが絶ぜつ望ぼう的てきな声で言った。「それなら、ご自分の責任でそうなさい」
おばさんは玄げん関かんの扉とびらをギーッと開けて外に出た。九月の弱い陽光ようこうの中だった。ハリーと犬があとに続いた。扉がバタンと閉まり、ブラック夫人の喚き声がたちまち断たち切られた。
「トンクスは」十二番地の石段を下りながら、ハリーが見回した。十二番地は、歩道に出たとたん、掻かき消すように見えなくなった。
「すぐそこで待ってます」おばさんはハリーの脇を弾はずみながら歩いている黒い犬を見ないようにしながら、硬かたい表情で答えた。
曲がり角で老婆ろうばが挨あい拶さつした。くりくりにカールした白髪はくはつに、ポークパイの形をした紫むらさきの帽ぼう子しを被かぶっている。
「よッ、ハリー」老婆がウィンクした。「急いだほうがいいな、ね、モリー」老婆が時計を見ながら言った。
「わかってるわ、わかってるわよ」おばさんは呻うめくように言うと、歩幅ほはばを大きくした。「だけど、マッド‐アイがスタージスを待つって言うものだから……アーサーがまた魔法省の車を借かりられたらよかったんだけど……ファッジったら、このごろアーサーには空からのインク瓶びんだって貸かしてくれやしない……マグルは魔法なしでよくもまあ移動するものだわね……」