「もひとつ蛙かえるを投げてくれ」ロンは何にも気づかなかったらしい。
ネビルとルーナの前では、ハリーは自由に話すわけにはいかなかった。心配そうなハーマイオニーともう一度目配めくばせし合い、ハリーは窓の外を見つめた。
シリウスがハリーと一いっ緒しょに駅に来たのは、軽い冗じょう談だんだと思っていた。急にそれが、むちゃで、本当に危険だったかもしれないと思われた……。ハーマイオニーの言うことは正しかった……シリウスはついて来るべきではなかった。マルフォイ氏が黒い犬に気づいて、ドラコに教えたのだとしたら ウィーズリー夫妻ふさいや、ルーピン、トンクス、ムーディが、シリウスの隠れ家を知っていると、マルフォイ氏が推測すいそくしたとしたら それともドラコが「犬のように」と言ったのは、単なる偶然ぐうぜんなのか
北へ北へと旅が進んでも、天気は相変わらず気まぐれだった。中ちゅう途と半はん端ぱな雨が窓にかかったかと思うと、太陽が微かすかに現れ、それもまた流れる雲に覆おおわれた。暗くら闇やみが迫せまり、車内のランプが点つくと、ルーナは「ザ・クィブラー」を丸め、大事そうにカバンにしまい、こんどはコンパートメントの一人ひとりをじっと見つめはじめた。
ハリーは、ホグワーツが遠くにちらりとでも見えないかと、額ひたいを車窓しゃそうにくっつけていた。しかし、月のない夜で、しかも雨に打たれた窓は汚れていた。
「着き替がえをしたほうがいいわ」ハーマイオニーが促うながした。ロンとハーマイオニーはローブの胸に、しっかり監かん督とく生せいバッジをつけた。ロンが暗い窓に自分の姿を映うつしているのを、ハリーは見た。
汽車がいよいよ速度を落としはじめた。みんなが急いで荷物やペットを集め、降おりる仕度したくを始めたので、車内のあちこちがいつものように騒がしくなった。ロンとハーマイオニーは、それを監督することになっているので、クルックシャンクスとピッグウィジョンの世話をみんなに任まかせて、またコンパートメントを出て行った。