「何のことを話してるんだ」
「これのことだよ――見ろよ」
ハリーはロンの腕をつかんで後ろを向かせた。翼つばさのついた馬を真正面から見せるためだ。ロンは一いっ瞬しゅんそれを直ちょく視ししたが、すぐハリーを振り向いて言った。
「何が見えてるはずなんだ」
「何がって――ほら、棒ぼうと棒の間 馬車に繋つながれて 君の真ん前に――」
しかし、ロンは相変わらず呆然ぼうぜんとしている。ハリーはふと奇き妙みょうなことを思いついた。
「見えない……君、あれが見えないの」
「何が見えないって」
「馬車を牽ひっ張ぱってるものが見えないのか」
ロンはこんどこそ本当に驚おどろいたような目を向けた。
「ハリー、気分悪くないか」
「僕……ああ……」
ハリーはまったくわけがわからなかった。馬は自分の目の前にいる。背後の駅の窓から流れ出るぼんやりした明かりにてらてらと光り、冷たい夜や気きの中で鼻息が白く立ち昇のぼっている。それなのに――ロンが見えないふりをしているなら別だが――そんなふりをしているなら、下へ手たな冗じょう談だんだ――ロンにはまったく見えていないのだ。
「それじゃ、乗ろうか」ロンは心配そうにハリーを見て、戸惑とまどいながら聞いた。
「うん」ハリーが言った。「うん、中に入れよ……」
「大だい丈じょう夫ぶだよ」ロンが馬車の内側の暗いところに入って姿が見えなくなると、ハリーの脇わきで、夢見るような声がした。「あんたがおかしくなったわけでもなんでもないよ。あたしにも見えるもン」
「君に、見える」ハリーはルーナを振り返り、藁わらにもすがる思いで聞いた。ルーナの見開いた銀色の目に、コウモリ翼つばさの馬が映うつっているのが見えた。
「うん、見える」ルーナが言った。「あたしなんか、ここに来た最初の日から見えてたよ。こいつたち、いつも馬車を牽ひいてたんだ。心配ないよ。あんたはあたしと同じぐらい正しょう気きだもン」
ちょっと微笑ほほえみながら、ルーナは、ロンのあとから黴臭かびくさい馬車に乗り込んだ。かえって自信が持てなくなったような気持で、ハリーもルーナのあとに続いた。