以前に一度だけ、ロンの見えないものが自分だけに見えたことがあった。しかし、あれは鏡に映うつる姿で、今回ほど実体のある物ではなかった。こんどは、馬車の隊列を牽ひくだけの力がある百頭あまりの、ちゃんと形のある生き物だ。ルーナを信用するなら、この生き物はずっと存在していた。見えなかっただけだ。それなら、なぜ、ハリーは急に見えるようになり、ロンには見えなかったのだろう
「来るのか来ないのか」ロンがそばで言った。
「あ……うん」ハリーは急いで返事をし、石段を上って城内へと急ぐ群れに加わった。
玄関ホールには松明たいまつが明々と燃え、石いし畳だたみを横切って右の両開き扉へと進む生徒たちの足音が反はん響きょうしていた。扉とびらの向こうに、新学期の宴うたげが行われる大広間がある。
大広間の四つの寮りょうの長テーブルに、生徒たちが次々と着席していた。高窓たかまどから垣かい間ま見みえる空を模もした天井は、星もなく真っ暗だった。テーブルに沿って浮かぶ蝋燭ろうそくは、大広間に点在する真しん珠じゅ色いろのゴーストと、生徒たちの顔を照らしている。生徒たちは夏休みの話に夢中で、他の寮の友達に大声で挨あい拶さつしたり、新しい髪型かみがたやローブをちらちら眺ながめたりしていた。ここでもハリーは、自分が通るとき、みんなが額ひたいを寄よせ合いひそひそ話をすることに気づいた。ハリーは歯はを食いしばり、何も気づかず、何も気にしないふりをした。
レイブンクローのテーブルのところで、ルーナがふらりと離はなれて行った。グリフィンドールのテーブルに着くや否いなや、ジニーは四年生たちに呼びかけられ、同級生と一いっ緒しょに座るために別れて行った。ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビルは、テーブルの中ほどに、一緒に座れる席を見つけた。隣となりにグリフィンドールのゴースト、「ほとんど首無しニック」が、反対隣にはパーバティ・パチルとラベンダー・ブラウンが座っていた。この二人が、ハリーに何だかふわふわした、親しみを込めすぎる挨拶をしたので、ハリーは、二人が直前まで自分の噂うわさ話ばなしをしていたに違いないと思った。しかし、ハリーにはもっと大切な、気がかりなことがあった。生徒の頭越しに、ハリーは、広間の一番奥の壁際かべぎわに置かれている教きょう職しょく員いんテーブルを眺ながめた。
「あそこにはいない」
ロンとハーマイオニーも教職員テーブルを隅すみから隅まで眺めた。もっともそんな必要はなかった。ハグリッドの大きさでは、どんな列の中でもすぐに見つかる。