「辞やめたはずはないし」ロンは少し心配そうだった。
「そんなこと、絶対ない」ハリーがきっぱり言った。
「もしかして……怪我しているとか、そう思う」ハーマイオニーが不安そうに言った。
「違う」ハリーが即座そくざに答えた。
「だって、それじゃ、どこにいるの」
一いっ瞬しゅん間を置いて、ハリーが、ネビルやパーバティ、ラベンダーに聞こえないように、ごく小さな声で言った。
「まだ戻ってきてないのかも。ほら――任務にんむから――ダンブルドアのために、この夏にやっていたことから」
「そうか……うん、きっとそうだ」
ロンが納得なっとくしたように言った。しかし、ハーマイオニーは唇くちびるを噛かんで、教職員テーブルを端から端まで眺め、ハグリッドの不在の理由をもっと決定的に説明するものを探しているかのようだった。
「あの人、誰」ハーマイオニーが教職員テーブルの真ん中を指差して鋭するどく言った。
ハリーはハーマイオニーの視線しせんを追った。最初はダンブルドア校長が目に入った。教職員用の長テーブルの中心に、銀の星を散らした濃い紫むらさきのローブにお揃そろいの帽子ぼうしを被かぶって、背もたれの高い金色の椅子に座っている。ダンブルドアは隣となりの魔女のほうに首を傾かしげ、魔女がその耳元で何か話していた。ハリーの印いん象しょうでは、その魔女は、そこいらにいるおばさんという感じで、ずんぐりした体にくりくりした薄うす茶ちゃ色いろの短い髪かみをしている。そこにけばけばしいピンクのヘアバンドを着け、そのヘアバンドに合うふんわりしたピンクのカーディガンをローブの上から羽は織おっていた。それから魔女は少し顔を正面に向け、ゴブレットからひと口飲んだ。ハリーはその顔を見て愕然がくぜんとした。この顔は知っている。蒼あお白じろいガマガエルのような顔、弛たるんだ瞼まぶたと飛び出した両りょう眼め……。
「アンブリッジって女だ」
「誰」ハーマイオニーが聞いた。
「僕の尋じん問もんにいた。ファッジの下で働いてる」
「カーディガンがいいねぇ」ロンがニヤリとした。
「ファッジの下で働いてるですって」ハーマイオニーが顔をしかめて繰くり返した。「なら、いったいどうしてここにいるの」
「さあ……」
ハーマイオニーは、目を凝こらして教きょう職しょく員いんテーブルを眺ながめ回した。