帽子は再び動かなくなった。拍はく手しゅが湧わき起こったが、呟つぶやきと囁ささやきで萎しぼみがちだった。こんなことはハリーの憶おぼえているかぎり初めてだった。大広間の生徒はみんな、隣となり同どう士しで意見を交換こうかんしている。ハリーもみんなと一いっ緒しょに拍手しながら、みんなが何を話しているのかわかっていた。
「今年はちょっと守しゅ備び範はん囲いが広がったと思わないか」ロンが眉まゆを吊つり上げて言った。
「まったくだ」ハリーが言った。
組分け帽子ぼうしは通常、ホグワーツの四つの寮りょうの持つそれぞれの特性を述べ、帽子自身の役割を語るに留まっていた。学校に対して警告けいこくを発するなど、ハリーの記憶きおくではこれまでなかったことだ。
「これまでに警告を発したことなんて、あった」ハーマイオニーが少し不安そうに聞いた。
「左様さよう。あります」
「ほとんど首無しニック」がネビルの向こうから身を乗り出すようにして、わけ知り顔で言ったネビルはぎくりと身を引いた。ゴーストが自分の体を通って身を乗り出すのは、気持のいいものではない。「あの帽子は、必要とあらば、自分の名誉めいよにかけて、学校に警告を発する責任があると考えているのです――」
しかし、そのときマクゴナガル先生が、一年生の名簿めいぼを読み上げようとしていて、ひそひそ話をしている生徒を火のような目で睨にらみつけた。「ほとんど首無しニック」は透とう明めいな指を唇くちびるに当て、再び優雅ゆうがに背筋せすじを伸ばした。ガヤガヤが突然消えた。四つのテーブルに隈くまなく視線しせんを走らせ、最後の睨みを利きかせてから、マクゴナガル先生は長い羊よう皮ひ紙しに目を落とし、最初の名前を読み上げた。
「アバクロンビー、ユーアン」
さっきハリーの目に止まった、怯おびえた顔の男の子が、つんのめるように前へ出て帽子を被かぶった。帽子は肩までズボッと入りそうだったが、耳がことさらに大きいのでそこで止まった。帽子は一いっ瞬しゅん考えた後、つば近くの裂さけ目が再び開いて叫さけんだ。
「グリフィンドール」
ハリーもグリフィンドール生と一いっ緒しょに拍はく手しゅし、ユーアン・アバクロンビーはよろめくようにグリフィンドールのテーブルに着いた。穴があったら入りたい、二度とみんなの前に出たくないという顔だ。