ハリーは何も言わなかった。杖つえをベッド脇わきのテーブルに投げ出し、ローブを剥はぎ取り、怒ったようにトランクに押し込み、パジャマを着た。うんざりだ。じろじろ見られて、しょっちゅう話の種にされるのはたくさんだ。いったいみんなはわかっているんだろうか、こういうことをずっと経験してきた人間がどんなふうに感じるのか、ほんの少しでもわかっているんだろうか……フィネガン夫人はわかってない。バカ女。ハリーは煮にえくり返る思いだった。
ハリーはベッドに入り、周りのカーテンを閉めはじめた。しかし、その前に、シェーマスが言った。
「ねえ……あの夜いったい何があったんだ……ほら、あのとき……セドリック・ディゴリーとかいろいろ」
シェーマスは怖こわさと知りたさが入いり交まじった言い方をした。ディーンは屈かがんでトランクからスリッパを出そうとしていたが、そのまま奇き妙みょうに動かなくなった。耳を澄すませていることがハリーにはわかった。
「どうして僕に聞くんだ」ハリーが言い返した。「『日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん』を読めばいい。君の母親みたいに。読めよ。知りたいことが全部書いてあるぜ」
「僕のママの悪口を言うな」シェーマスが突つっかかった。
「僕を嘘うそつき呼ばわりするなら、誰だって批判ひはんしてやる」ハリーが言った。
「僕にそんな口のききかたするな」
「好きなように口をきくさ」ハリーは急に気が立ってきて、ベッド脇わきのテーブルから杖つえをパッと取った。「僕と一いっ緒しょの寝室しんしつで困るなら、マクゴナガルに頼めよ。変えてほしいって言えばいい……ママが心配しないように――」
「僕の母親のことは放ほっといてくれ、ポッター」
「なんだ、なんだ」
ロンが戸口に現れ、目を丸くして、ハリーを、そしてシェーマスを見た。ハリーはベッドに膝立ひざだちし、杖をシェーマスに向けていた。シェーマスは拳こぶしを振り上げて立っていた。
「こいつ、僕の母親の悪口を言った」シェーマスが叫さけんだ。