細かい霧雨きりさめが降ふっていた。中庭に塊かたまって立っている人影ひとかげの、輪りん郭かくがぼやけて見えた。ハリー、ロン、ハーマイオニーはバルコニーから激はげしく雨だれが落ちてくる下で、他から離はなれた一角いっかくを選んだ。冷たい九月の風に、ローブの襟えりを立てながら、三人は、スネイプが今学期最初にどんな課題かだいを出すだろうかと話し合った。二ヵ月の休みで生徒が緩ゆるんでいるところを襲おそうという目的だけでも、何か極きょく端たんに難しいものを出すだろうということまでは意見が一致いっちした。そのとき誰かが角を曲がってこちらにやってきた。
「こんにちは、ハリー」
チョウ・チャンだった。しかも珍しいことに、こんどもたった一人だ。チョウはほとんどいつもクスクス笑いの女の子の集団に囲まれている。クリスマス・パーティに誘さそおうとして、なんとかチョウ一人のときを捕とらえようと苦しんだことを、ハリーは思い出した。
「やあ」ハリーは顔が火ほ照てるのを感じた。少なくとも今回は、『臭しゅう液えき』を被かぶってはいない、とハリーは自分に言い聞かせた。チョウも同じことを考えていたらしい。
「それじゃ、あれは取れたのね」
「うん」ハリーは、この前の出会いが苦痛くつうではなく滑稽こっけいな思い出でもあるかのように、ニヤッと笑おうとした。「それじゃ、君は……えー……いい休みだった」
言ってしまったとたん、ハリーは言わなきゃよかったと思った――セドリックはチョウのボーイフレンドだったし、その死という思い出は、ハリーにとってもそうだったが、チョウの夏休みに暗い影を落としたに違いない。チョウの顔に何か張りつめたものが走ったが、しかしチョウの答えは「ええ、まあまあよ……」だった。