スネイプの教室の前に並びながら、しかし――とハリーは考えた――チョウはわざわざハリーと話そうと思って近づいてきたのではないか チョウはセドリックのガールフレンドだった。セドリックが死んだのに、ハリーのほうは三校対たい抗こう試じ合あいの迷路めいろから生きて戻ってきた。チョウに憎にくまれてもおかしくない。それなのに、チョウはハリーに親しげに話しかけた。ハリーが狂っているとか、嘘うそつきだとか、恐ろしいことにセドリックの死に責任があるなどとは考えていないようだ……。そうだ、チョウはわざわざ僕に話しにきた。二日のうちに二回も……。そう思うと、ハリーは浮き浮きした。スネイプの地ち下か牢ろう教きょう室しつの戸がギーッと開く不吉ふきつな音でさえ、胸の中で膨ふくれた小さな希望の風船を破裂はれつさせはしなかった。ハリーはロンとハーマイオニーに続いて教室に入り、いつものように三人で後方の席に着き、二人から出てくるぷりぷり、イライラの騒音そうおんを無む視しした。
「静まれ」スネイプは戸を閉め、冷たく言った。
静せい粛しゅくにと言う必要はなかった。戸が閉まる音を聞いたとたん、クラスはしんとなり、そわそわもやんだ。たいていスネイプがいるだけで、クラスが静かになること請うけ合いだ。
「本日の授業を始める前に」スネイプはマントを翻ひるがえして教きょう壇だんに立ち、全員をじろりと見た。
「忘れぬようはっきり言っておこう。来きたる六月、諸君しょくんは重要な試験に臨のぞむ。そこで魔ま法ほう薬やくの成分、使用法につき諸君がどれほど学んだかが試ためされる。このクラスの何人かはたしかに愚鈍ぐどんであるが、我わが輩はいは諸君にせいぜいふくろう合格ごうかくすれすれの「可か」を期待する。さもなくば我輩の……不ふ興きょうを蒙こうむる」
スネイプのじろりがこんどはネビルを睨ねめつけた。ネビルがゴクッと唾つばを飲んだ。
「言うまでもなく、来年から何人かは我輩の授業を去ることになろう」スネイプは言葉を続けた。「我輩は、もっとも優ゆう秀しゅうなる者にしかいもりレベルの『魔法薬』の受講じゅこうを許さぬ。つまり、何人かは必ずや別れを告げるということだ」
スネイプの目がハリーを見み据すえ、薄うすら笑いを浮かべた。五年目が終ったら、「魔法薬」をやめられると思うと、ぞくっとするような喜びを感じながら、ハリーも睨にらみ返した。