アンブリッジ先生は黒板を離はなれ、教きょう壇だんの先生用の机の椅子に陣取じんどり、下目蓋まぶたが弛たるんだガマガエルの目でクラスを観察かんさつした。ハリーは自分の教科書の五ページを開き、読みはじめた。
絶ぜつ望ぼう的てきにつまらなかった。ビンズ先生の授業を聞いているのと同じくらいひどかった。集中力が抜け落ちていくのがわかった。同じ行を五、六回読んでも、最初の一言、二言しか頭に入らない。何分かの沈ちん黙もくの時間が流れた。ハリーの隣となりで、ロンがぼーっとして、羽は根ねペンを指でくるくる回し、五ページの同じところをずっと見つめている。右のほうを見たハリーは、驚おどろいて麻ま痺ひ状じょう態たいから醒さめた。ハーマイオニーは『防衛術の理論』の教科書を開いてもいない。手を挙あげ、アンブリッジ先生をじっと見つめていた。
ハーマイオニーが読めと言われて読まなかったことは、ハリーの記憶きおくでは一度もない。それどころか、目の前に本を出されて、開きたいという誘惑ゆうわくに抵抗ていこうしたことなどない。ハリーはどうしたの、という目を向けたが、ハーマイオニーは首をちょっと振って、質問に答えるどころではないのよ、と合図しただけだった。そしてアンブリッジ先生をじっと見つめ続けた。先生は同じくらい頑固がんこに、別な方向を見続けている。
それからまた数分が経たつと、ハーマイオニーを見つめているのはハリーだけでなくなった。読みなさいと言われた第一章が、あまりにも退屈たいくつだったし、「初心者の基礎」と格闘かくとうするよりは、アンブリッジ先生の目を捕とらえようとしているハーマイオニーの無言の行動を見ているほうがいいという生徒がだんだん増えてきた。
クラスの半数以上が、教科書よりハーマイオニーを見つめるようになると、アンブリッジ先生は、もはや状況を無む視しするわけにはいかないと判断したようだった。