「わたくしの前ぜん任にん者しゃは違法いほうな呪文をみなさんの前でやって見せたばかりか、実際みなさんに呪文をかけたと理解しています」
「でも、あの先生は狂っていたと、あとでわかったでしょう」ディーンが熱くなった。「だけど、ずいぶんいろいろ教えてくれた」
「手が挙がっていません、ミスター・トーマス」アンブリッジ先生は甲高かんだかく声を震ふるわせた。
「さて、試験に合格ごうかくするためには、理論的な知識で十分足りるというのが魔法省の見解けんかいです。結局学校というものは、試験に合格するためにあるのですから。それで、あなたのお名前は」
アンブリッジ先生が、いま手を挙げたばかりのパーバティを見て聞いた。
「パーバティ・パチルです。それじゃ、『闇の魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』ふくろうには、実技はないんですか 実際に反対呪文とかやって見せなくてもいいんですか」
「理論を十分に勉強すれば、試験という慎しん重ちょうに整えられた条件の下もとで、呪文がかけられないということはありえません」アンブリッジ先生が、素そっ気けなく言った。
「それまで一度も練習しなくても」パーバティが信じられないという顔をした。「初めて呪文を使うのが試験場だとおっしゃるんですか」
「繰くり返します。理論を十分に勉強すれば――」
「それで、理論は現実世界でどんな役に立つんですか」ハリーはまた拳こぶしを突つき上げて大声で言った。
アンブリッジ先生が眼めを上げた。
「ここは学校です。ミスター・ポッター。現実世界ではありません」先生が猫撫ねこなで声で言った。
「それじゃ、外の世界で待ち受けているものに対して準備しなくていいんですか」
「外の世界で待ち受けているものは何もありません。ミスター・ポッター」
「へえ、そうですか」朝からずっとふつふつ煮にえたぎっていたハリーの癇かん癪しゃくが、沸ふっ騰とう点てんに達しかけた。
「あなた方のような子供を、誰が襲おそうと思っているの」アンブリッジ先生がぞっとするような甘ったるい声で聞いた。
「うーむ、考えてみます……」ハリーは思し慮りょ深ぶかげな声を演えんじた。「もしかしたら……ヴォルデモート卿きょう」