アンブリッジ先生は机の向こう側に腰掛こしかけた。しかし、ハリーは立ち上がった。みんながハリーを見つめていた。シェーマスは半分恐こわ々ごわ、半分感心したように見ていた。
「ハリー、ダメよ」ハーマイオニーがハリーの袖そでを引いて、警告けいこくするように囁ささやいた。しかしハリーは腕をぐっと引いて、ハーマイオニーが届かないようにした。
「それでは、先生は、セドリック・ディゴリーが独ひとりで勝手に死んだと言うんですね」
ハリーの声が震ふるえていた。
クラス中が一斉いっせいに息を呑のんだ。ロンとハーマイオニー以外は、セドリックが死んだあの夜の出来事をハリーの口から聞いたことがなかったからだ。みんなが貪むさぼるようにハリーを、そしてアンブリッジ先生を見た。アンブリッジ先生は目を吊つり上げ、ハリーを見み据すえた。顔からいっさいの作り笑いが消えていた。
「セドリック・ディゴリーの死は、悲しい事故です」先生が冷たく言った。
「殺されたんだ」ハリーが言った。体が震えているのがわかった。これはまだほとんど誰にも話していないことだった。ましてや三十人もの生徒が熱心に聞き入っている前で話すのは初めてだ。「ヴォルデモートがセドリックを殺した。先生もそれを知っているはずだ」
アンブリッジ先生は無表情だった。一いっ瞬しゅん、ハリーは先生が自分に向かって絶ぜっ叫きょうするのではないかと思った。しかし、先生はやさしい、甘ったるい女の子のような声を出した。「ミスター・ポッター、いい子だから、こっちへいらっしゃい」
ハリーは椅子を脇わきに蹴け飛とばし、ロンとハーマイオニーの後ろを通り、大股おおまたで先生の机のほうに歩いて行った。クラス中が息をひそめているのを感じた。怒りのあまり、ハリーは次に何が起ころうとかまうもんかと思った。
アンブリッジ先生はハンドバッグから小さなピンクの羊よう皮ひ紙しを一巻ひとまき取り出し、机に広げ、羽は根ねペンをインク瓶びんに浸ひたして書きはじめた。ハリーに書いているものが見えないように、背中を丸めて覆おおいかぶさっている。誰もしゃべらない。一分かそこら経たったろうか、先生は羊皮紙を丸め、杖つえで叩たたいて継つぎ目なしの封をし、ハリーが開封かいふうできないようにした。