その夜の大広間での夕食は、ハリーにとって楽しいものではなかった。アンブリッジとの怒ど鳴なり合いのニュースは、ホグワーツの基き準じゅんに照らしても例外的な速さで伝わった。ロンとハーマイオニーに挟はさまれて食事をしていても、ハリーの耳には周り中の囁ささやきが聞こえてきた。おかしなことに、ひそひそ話の主ぬしは、話の内容を当の本人に聞かれても誰も気にしないようだった。逆に、ハリーが腹を立ててまた怒鳴り出せば、直接本人から話が聞けると期待しているようだった。
「セドリック・ディゴリーが殺されるのを見たって言ってる……」
「『例のあの人』と決闘けっとうしたと言ってる……」
「まさか……」
「誰がそんな話に騙だまされると思ってるんだ」
「まーったくだ……」
「僕にはわからない」両手が震ふるえ、ナイフとフォークを持っていられなくなってテーブルに置きながら、ハリーが声を震わせた。「二ヵ月前にダンブルドアが話したときは、どうしてみんな信じたんだろう……」
「要するにね、ハリー、信じたかどうか怪あやしいと思うわ」ハーマイオニーが深刻しんこくな声で言った。「ああ、もうこんなところ、出ましょう」
ハーマイオニーも自分のナイフとフォークをドンと置いたが、ロンはまだ半分残っているアップルパイを未練みれんたっぷりに見つめてから、ハーマイオニーに倣ならった。三人が大広間から出て行くのを、みんなが驚おどろいたように目で追った。
「ダンブルドアを信じたかどうか怪しいって、どういうこと」ハリーは二階の踊おどり場ばまで来たとき、ハーマイオニーに聞いた。
「ねえ、あの出来事のあとがどんなだったか、あなたにはわかっていないのよ」ハーマイオニーが小声で言った。「芝生しばふの真ん中に、あなたがセドリックの亡なき骸がらをしっかりつかんで帰ってきたわ……迷路めいろの中で何が起こったのか、私たちは誰も見ていない……ダンブルドアが、『例のあの人』が帰ってきてセドリックを殺し、あなたと戦ったと言った言葉を信じるしかない」
「それが真実だ」ハリーが大声を出した。
「ハリー、わかってるわよ。お願いだから、噛かみつくのをやめてくれない」ハーマイオニーがうんざりしたように言った。「問題は、真実が心に染しみ込こむ前に、夏休みでみんなが家に帰ってしまったことよ。それから二ヵ月も、あなたが狂ってるとかダンブルドアが老いぼれだとか読まされて」