三人は足早にグリフィンドール塔とうに戻った。廊下ろうかには人気ひとけもなく、雨が窓ガラスを打っていた。学期初日が、ハリーには一週間にも感じられた。しかし、寝る前に、まだ山のように宿題がある。右目の上にズキンズキンと鈍にぶい痛みが走りはじめた。「太った婦人レディ」に続く廊下へと最後の角を曲がるとき、ハリーは雨に濡ぬれた窓を通して、暗い校庭に目をやった。ハグリッドの小屋には、まだ灯あかりがない。
「ミンビュラス ミンブルトニア」
ハーマイオニーは「太った婦人レディ」に催促さいそくされる前に唱となえた。肖しょう像ぞう画ががパックリ開き、その裏うらの穴が現れ、三人はそこをよじ登った。
談だん話わ室しつはほとんど空っぽだった。まだ大部分の生徒が下で夕食を食べている。丸くなって寝ていたクルックシャンクスが肘ひじ掛かけ椅い子すから降おり、トコトコと三人を迎むかえ、大きくゴロゴロと喉のどを鳴らした。ハリー、ロン、ハーマイオニーが、お気に入りの暖炉だんろ近くの椅子に座ると、クルックシャンクスはハーマイオニーの膝ひざにぽんと飛び乗り、ふわふわしたオレンジ色のクッションのように丸まった。ハリーはすっかり力が抜け、疲れ果てて暖炉の火を見つめた。
「ダンブルドアはどうしてこんなことを許したの」
ハーマイオニーが突然叫さけび、ハリーとロンは飛び上がった。クルックシャンクスも膝から飛び降おり、気分を害したような顔をした。ハーマイオニーが怒って椅子の肘掛けをバンバン叩たたくので、穴から詰つめ物がはみ出してきた。
「あんなひどい女に、どうして教えさせるの しかもふくろうの年に」
「でも、『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』じゃ、すばらしい先生なんていままでいなかっただろ」ハリーが言った。「ほら、なんて言うか、ハグリッドが言ったじゃないか、誰もこの仕事に就つきたがらない。呪のろわれてるって」
「そうよ。でも私たちが魔法を使うことを拒否きょひする人を雇やとうなんて ダンブルドアはいったい何を考えてるの」
「しかもあいつは、生徒を自分のスパイにしようとしてる」ロンが暗い顔をした。「憶おぼえてるか 誰かが『例のあの人』が戻ってきたって言うのを聞いたら話しにきてくださいって、あいつそう言ったろ」
「もちろん、あいつは私たち全員をスパイしてるわ。わかり切ったことじゃない。そうじゃなきゃ、そもそもなぜファッジが、あの女をよこしたがるって言うの」
「また言い争いを始めたりするなよ」ロンが反論はんろんしかけたので、ハリーがうんざりしたように言った。「頼むから……黙だまって宿題をやろう。片かたづけちゃおう……」