「何をおっぱじめたんだ」ロンは正しょう気きを疑うような目でハーマイオニーを見た。
「屋敷やしきしもべ妖よう精せいの帽子ぼうしよ」ハーマイオニーはきびきびと答え、教科書をバッグにしまいはじめた。「夏休みに作ったの。私、魔法を使えないと、とっても編あむのが遅おそいんだけど、もう学校に帰ってきたから、もっとたくさん作れるはずだわ」
「しもべ妖よう精せいの帽子ぼうしを置いとくのか」ロンがゆっくりと言った。「しかも、まずゴミくずで隠してるのか」
「そうよ」ハーマイオニーはカバンを肩にひょいと掛かけながら、挑ちょう戦せんするように言った。
「そりゃないぜ」ロンが怒った。「連中を騙だまして帽子を拾ひろわせようとしてる。自由になりたがっていないのに、自由にしようとしてるんだ」
「もちろん自由になりたがってるわ」ハーマイオニーが即座そくざに言った。しかし、顔がほんのり赤くなった。「絶対帽子に触さわっちゃダメよ、ロン」
ハーマイオニーは行ってしまった。ロンはハーマイオニーの姿が女じょ子し寮りょうのドアの中に消えるまで待って、それから毛糸の帽子を覆おおったゴミを払った。
「少なくとも、何を拾ひろっているか見えるようにすべきだ」ロンがきっぱり言った。「とにかく……」ロンはスネイプのレポートの題だけ書いた羊よう皮ひ紙しを丸めた。「これをいま終らせる意味はない。ハーマイオニーがいないとできない。月げっ長ちょう石せきを何に使うのか、僕、さっぱりわかんない。君は」
ハリーは首を振ったが、そのとき、右のこめかみの痛みがひどくなっているのに気づいた。巨人の戦争に関する長いレポートのことを考えると、ズキンと刺さすような痛みが走った。今晩こんばん中に宿題を終えないと、朝になって後悔こうかいすることはよくわかっていたが、ハリーは本をまとめてカバンにしまった。
「僕も寝る」
男子寮のドアに向かう途と中ちゅう、シェーマスの前を通ったが、ハリーは目を合わせなかった。一いっ瞬しゅん、シェーマスがハリーに話しかけようと口を開いたような気がしたが、そのまま足を速めた。石の螺ら旋せん階かい段だんにたどり着くと、もう誰の挑ちょう発はつに耐たえる必要もない平和な安らぎが、そこにはあった。