一番手前の温室の戸が開き、そこから四年生が溢あふれ出てきた。ジニーもいた。
「こんちわ」
すれ違いながら、ジニーが朗ほがらかに挨あい拶さつした。そのあと、ルーナ・ラブグッドが他の生徒の後ろからゆっくり現れた。髪かみを頭のてっぺんで団子だんごに丸め、鼻先に泥をくっつけていた。ハリーを見つけると興こう奮ふんして、飛び出た目がもっと飛び出したように見えた。ルーナはまっすぐハリーのところに来た。ハリーのクラスメートが、何だろうと大勢振り返った。ルーナは大きく息を吸い込み、「こんにちは」の前置きもせずに話しかけた。
「あたしは、『名前を言ってはいけないあの人』が戻ってきたと信じてるよ。それに、あんたが戦って、あの人から逃げたって、信じてる」
「え――そう」
ハリーはぎごちなく言った。ルーナはオレンジ色の蕪かぶをイヤリング代わりに着けていた。どうやらパーバティとラベンダーがそれに気づいたらしく、二人ともルーナの耳たぶを指差してクスクス笑っていた。
「笑ってもいいよ」ルーナの声が大きくなった。どうやら、パーバティとラベンダーがイヤリングではなく、自分の言ったことを笑っていると思ったらしい。「だけど、ブリバリング・ハムディンガーとか、しわしわ角づのスノーカックがいるなんて、昔は誰も信じていなかったんだから」
「でも、いないでしょう」ハーマイオニーが我慢がまんできないとばかりに口を出した。「ブリバリング・ハムディンガーとか、しわしわ角づのスノーカックなんて、いなかったのよ」
ルーナはハーマイオニーを怯ひるませるような目つきをし、蕪かぶをブラブラ揺ゆらしながら仰ぎょう々ぎょうしく立ち去った。大笑いしたのは、こんどはパーバティとラベンダーだけではなかった。
「僕を信じてるたった一人の人を怒らせないでくれる」
授業に向かいながら、ハリーがハーマイオニーに申し入れた。
「何言ってるの、ハリー。あの子よりましな人がいるでしょう ジニーがあの子のことをいろいろ教えてくれたけど、どうやら、全然証しょう拠こがないものしか信じないらしいわ。まあ、もっとも、父親が『ザ・クィブラー』を出してるくらいだから、そんなところでしょうね」