「あの」ハリーは突っ立ったまま言った。「アンブリッジ先生、あの――始める前に、僕――先生に――お願いが」
アンブリッジの飛び出した目が細くなった。
「おや、なあに」
「あの、僕……グリフィンドールのクィディッチのメンバーです。金曜の五時に、新しいキーパーの選抜せんばつに行くことになっていて、それで――その晩ばんだけ罰則ばっそくをはずしていただけないかと思って。別な――別な夜に……代わりに……」
言い終えるずっと前に、とうていだめだとわかった。
「ああ、だめよ」
アンブリッジは、いましがたことさらにおいしい蝿はえを飲み込んだかのように、ニターッと笑った。
「ええ、ダメ、ダメ、ダメよ。質たちの悪い、いやな、目立ちたがりのでっち上げ話を広めた罰ばつですからね、ミスター・ポッター。罰というのは当然、罪人つみびとの都合つごうに合わせるわけにはいきませんよ。だめです。あなたは明日五時にここに来るし、次の日も、金曜日も来るのです。そして予定どおり罰則を受けるのです。あなたが本当にやりたいことができないのは、かえっていいことだと思いますよ。わたくしが教えようとしている教きょう訓くんが強化されるはずです」
ハリーは頭に血が上ってくるのを感じ、耳の奥でドクンドクンという音が聞こえた。それじゃ僕は、質の悪い、いやな、目立ちたがりのでっち上げ話をしたって言うのか
アンブリッジはニタリ笑いのまま小首を傾かしげ、ハリーを見つめていた。ハリーが何を考えているかずばりわかっているという顔で、ハリーがまた怒ど鳴なり出すかどうか様子を見ているようだった。ハリーは、力を振ふり絞しぼってアンブリッジから顔を背そむけ、カバンを椅子の脇わきに置いて腰掛こしかけた。
「ほうら」アンブリッジがやさしく言った。「もう癇かん癪しゃくを抑おさえるのが上手になってきたでしょう さあ、ミスター・ポッター、書き取り罰則ばっそくをしてもらいましょうね。いいえ、あなたの羽は根ねペンでではないのよ」ハリーがカバンを開くとアンブリッジが言い足した。「ちょっと特別な、わたくしのを使うのよ。はい」
アンブリッジが細長い黒い羽根ペンを渡した。異常に鋭するどいペン先がついている。
「書いてちょうだいね。『僕は嘘うそをついてはいけない』って」アンブリッジが柔らかに言った。
「何回ですか」ハリーは、いかにも礼儀れいぎ正しく聞こえるように言った。
「ああ、その言葉が滲しみ込こむまでよ」アンブリッジが甘い声で言った。「さあ始めて」