「落ち着け」階段を駆かけ上がりながら、ハリーは自分に言い聞かせた。落ち着くんだ。必ずしもおまえが考えているようなことだとはかぎらない……。
「ミンビュラス ミンブルトニア」「太った婦人レディ」に向かって、ハリーはゼイゼイ言った。肖しょう像ぞう画ががパックリ開いた。
ワーッという音がハリーを迎むかえた。顔中にこにこさせ、つかんだゴブレットからバタービールを胸に撥はねこぼしながらロンが走り寄ってきた。
「ハリー、僕、やった。僕、受かった。キーパーだ」
「え わあ――すごい」ハリーは自然に笑おうと努力した。しかし心臓はドキドキし、手はズキズキと血を流していた。
「バタービール、飲めよ」ロンが瓶びんをハリーに押しつけた。「僕、信じられなくて――ハーマイオニーはどこ」
「そこだ」
フレッドが、バタービールをぐい飲みしながら、暖だん炉ろ脇わきの肘ひじ掛かけ椅い子すを指差していた。ハーマイオニーは椅子でうとうとし、手にした飲み物が危なっかしく傾かしいでいた。
「うーん、僕が知らせたとき、ハーマイオニーはうれしいって言ったんだけど」ロンは少しがっかりした顔をした。
「眠らせておけよ」ジョージが慌あわてて言った。そのすぐあと、ハリーは、周りに集まっている一年生の何人かに、最近鼻血を出した跡あとがはっきりついているのに気づいた。
「ここに来てよ、ロン。オリバーのお下がりのユニホームが合うかどうか見てみるから」ケイティ・ベルが呼んだ。「オリバーの名前を取って、あなたのをつければいい」
ロンが行ってしまうと、アンジェリーナが大股おおまたで近づいてきた。
「さっきは短気を起こして悪かったよ、ポッター」アンジェリーナが藪やぶから棒ぼうに言った。
「なにせ、ストレスが溜たまるんだ。キャプテンなんていう野や暮ぼな役は。私、ウッドに対して少し厳きびしすぎたって思いはじめたよ」アンジェリーナは、手にしたゴブレットの縁越ふちごしにロンを見ながら少し顔をしかめた。
「あのさ、彼が君の親友だってことはわかってるけど、あいつは凄すごいとは言えないね」アンジェリーナはぶっきらぼうに言った。「だけど、少し訓練すれば大だい丈じょう夫ぶだろう。あの家族からはいいクィディッチ選手が出ている。今夜見せたよりはましな才能を発揮はっきするだろう。まあ、正直なとこ、そうなることに賭かけてる。ビッキー・フロビシャーとジェフリー・フーパーのほうが、今夜は飛びっぷりがよかった。しかし、フーパーは愚ぐ痴ちり屋やだ。なんだかんだと不平ばっかり言ってる。ビッキーはクラブ荒らしだ。自分でも認めたけど、練習が呪じゅ文もんクラブとかち合ったら、呪文を優先ゆうせんするってさ。とにかく、明日の二時から練習だ。こんどは必ず来いよ。それに、お願いだから、できるだけロンを助けてやってくれないかな。いいかい」
ハリーは頷うなずいた。アンジェリーナはアリシア・スピネットのところへ悠然ゆうぜんと戻って行った。ハリーはハーマイオニーのそばまで行った。カバンを置くと、ハーマイオニーがびくっとして目を覚ました。