「ああ、ハリー、あなたなの……ロンのこと、よかったわね」ハーマイオニーはとろんとした目で言った。「私、と――と――とっても疲れちゃった」ハーマイオニーは欠伸あくびをした。「帽子ぼうしをたくさん作るのに、一時まで起きていたの。すごい勢いでなくなってるのよ」
たしかに、見回すと、談だん話わ室しつの至いたる所、不注意なしもべ妖よう精せいがうっかり拾ひろいそうな場所には毛糸の帽子が隠してあった。
「いいね」ハリーは気もそぞろに答えた。誰かにすぐに言わないと、いまにも破裂はれつしそうな気分だ。「ねえ、ハーマイオニー、いまアンブリッジの部屋にいたんだ。それで、あいつが僕の腕に触さわった……」
ハーマイオニーは注意深く聴きいて、ハリーが話し終ると、考えながらゆっくり言った。
「『例のあの人』がクィレルをコントロールしたみたいに、アンブリッジをコントロールしてるんじゃないかって心配なの」
「うーん」ハリーは声を落とした。「可能性はあるだろう」
「あるかもね」ハーマイオニーはあまり確信かくしんが持てないような言い方をした。「でも、『あの人』がクィレルと同じやり方でアンブリッジに『取とり憑つく』ことはできないと思うわ。つまり、『あの人』はもう生きてるんでしょう 自分の身体からだを持ってるわけだから、誰かの体は必要じゃないわ。アンブリッジに『服ふく従じゅう呪じゅ文もん』をかけることは可能だと思うけど……」
ハリーは、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンがバタービールの空あき瓶びんでジャグリングをしているのをしばらく眺ながめていた。するとハーマイオニーが言った。
「でも、去年、誰も触さわっていないのに傷きず痕あとが痛むことがあったわね。ダンブルドアがこう言わなかった『例のあの人』がそのとき感じていることに関係している。つまり、もしかしたらアンブリッジとはまったく関係がないかもしれないわ。たまたまアンブリッジと一いっ緒しょにいたときにそれが起こったのは、単なる偶然ぐうぜんかもしれないじゃない」
「あいつは邪悪じゃあくなやつだ」ハリーが言った。「根性曲がりだ」
「ひどい人よ、たしかに。でも……ハリー、ダンブルドアに、傷痕の痛みのことを話さないといけないと思うわ」
ダンブルドアのところへ行けと忠ちゅう告こくされたのは、この二日で二度目だ。そしてハリーのハーマイオニーへの答えは、ロンへのとまったく同じだった。
「このことでダンブルドアの邪魔じゃまはしない。いま君が言ったように大したことじゃない。この夏中、しょっちゅう痛んでたし――ただ、今夜はちょっとひどかった――それだけさ――」
「ハリー、ダンブルドアはきっとこのことで邪魔されたいと思うわ――」
「うん」ハリーはそう言ったあと、言いたいことが口を衝ついて出てしまった。「ダンブルドアは僕のその部分だけしか気にしてないんだろ 僕の傷痕しか」
「何を言い出すの。そんなことないわ」