何かがハリーの足の踝くるぶしを掠かすめた。見下ろすと、管かん理り人にんフィルチの飼かっている、骸骨がいこつのように痩やせた灰色の猫、ミセス・ノリスが、こっそり通り過ぎるところだった。一いっ瞬しゅん、ランプのような黄色い目をハリーに向け、「憂うれいのウィルフレッド」の像の裏うらへと姿をくらました。
「僕、何にも悪いことしてないぞ」ハリーが跡あとを追いかけるように言った。猫は、間違いなくご主人様に言いつけにいくときの雰ふん囲い気きだったが、ハリーにはどうしてなのかわからなかった。土曜の朝にふくろう小屋に歩いて行く権利はあるはずだ。
もう太陽が高くなっていた。ふくろう小屋に入ると、ガラスなしの窓々から射さし込む光のまぶしさに目が眩くらんだ。どっと射し込む銀色の光線が、円えん筒とう状じょうの小屋を縦じゅう横おうに交差している。垂木たるきに止まった何百羽ものふくろうは、早朝の光で少し落ち着かない様子だ。狩かりから帰ったばかりらしいのもいる。ハリーは首を伸ばしてヘドウィグを探した。藁わらを敷しき詰つめた床の上で、小動物の骨が踏ふみ砕くだかれてポキポキと軽い音を立てた。
「ああ、そこにいたのか」丸天井のてっぺん近くに、ヘドウィグを見つけた。「降おりてこいよ。頼みたい手紙があるんだ」
ホーと低く鳴いて大きな翼つばさを広げ、ヘドウィグはハリーの肩に舞まい降おりた。
「いいか、表にはスナッフルズって書いてあるけど」ハリーは手紙を嘴くちばしにくわえさせながら、なぜか自分でもわからず囁ささやき声で言った。「でも、これはシリウス宛あてなんだ。オッケー」
ヘドウィグは琥こ珀はく色いろの目を一回だけパチクリした。ハリーはそれがわかったという意味だと思った。
「じゃ、気をつけて行くんだよ」
ハリーはヘドウィグを窓まで運んだ。ハリーの腕をくいっと一押しし、ヘドウィグは眩まぶしい空へと飛び去った。ハリーはヘドウィグが小さな黒い点になり、姿が消えるまで見守った。それからハグリッドの小屋へと目を移した。小屋はこの窓からはっきりと見えたが、誰もいないこともはっきりしていた。煙突には煙も見えず、カーテンは締しめ切られている。