「禁きんじられた森」の木々の梢こずえが微かすかな風に揺ゆれた。ハリーは顔一いっ杯ぱいに清々すがすがしい風を味わい、このあとのクィディッチのことを考えながら、梢を見ていた……突然何かが目に入った。ホグワーツの馬車を牽ひいていた、あの巨大な爬は虫ちゅう類るいのような有翼ゆうよくの馬だ。鞣なめし革がわのようなすべすべした黒い両りょう翼よくを翼よく手しゅ竜りゅうのように広げ、巨大でグロテスクな鳥のように木々の間から舞まい上がった。それは大きく円を描いて上昇し、再び木々の間に突っ込んで行った。すべてがあっという間の出来事だったので、ハリーにはいま見たことが信じられなかった。しかし、心臓は狂ったように早鐘はやがねを打っていた。
背後でふくろう小屋の戸が開いた。ハリーは飛び上がるほど驚おどろいた。急いで振り返ると、チョウ・チャンが手紙と小包を持っているのが目に入った。
「やあ」ハリーは反はん射しゃ的てきに挨あい拶さつした。
「あら……おはよう」チョウが息を弾はずませながら挨拶した。「こんなに早く、ここに誰かいると思わなかったわ……私、つい五分前に、今日がママの誕たん生じょう日びだったことを思い出したの」
チョウは小包を持ち上げて見せた。
「そう」ハリーは脳みそが混線こんせんしたようだった。気の利きいたおもしろいことの一つも言いたかったが、あの恐ろしい有翼の馬の記憶きおくがまだ生々なまなましかった。
「いい天気だね」ハリーは窓のほうを指した。バツの悪さに内臓ないぞうが縮ちぢんだ。天気のことなんか。僕は何を言ってるんだ。天気のことなんか……。
「そうね」チョウは適当なふくろうを探しながら答えた。「いいクィディッチ日和びよりだわ。私、もう一週間もプレイしてないの。あなたは」
「ううん」ハリーが答えた。
チョウは学校のメンフクロウを選んだ。チョウがおいでおいでと腕に呼び寄せると、ふくろうは快く脚あしを突き出し、チョウが小包を括くくりつけられるようにした。