「みんながいなくなるより前に君たちのほうが寝室しんしつに行ってしまうんじゃないかと思いはじめたところだった」シリウスが言った。「一時間ごとに様子を見ていたんだ」
「一時間ごとに火の中に現れていたの」ハリーは半分笑いながら言った。
「ほんの数秒だけ、安全かどうか確認かくにんするのにね」
「もし誰かに見られていたら」ハーマイオニーが心配そうに言った。
「まあ、女の子が一人――見かけからは一年生かな――さっきちらりと見たかもしれない。だが、心配しなくていい」ハーマイオニーがあっと手で口を覆おおったので、シリウスが急いでつけ加えた。「その子がもう一度見たときにはわたしはもう消えていた。変な形をした薪まきか何かだと思ったに違いないよ」
「でも、シリウス、こんなとんでもない危険を冒おかして――」ハーマイオニーが何か言いかけた。
「君、モリーみたいだな」シリウスが言った。「ハリーの手紙に暗号を使わずに答えるにはこれしかなかった――暗号は破られる可能性がある」
ハリーの手紙と聞いたとたん、ハーマイオニーもロンもハリーをじっと見た。
「シリウスに手紙を書いたこと、言わなかったわね」ハーマイオニーが詰なじるように言った。
「忘れてたんだ」ハリーの言葉に嘘うそはなかった。ふくろう小屋でチョウ・チャンに出会って、その前に起きたことはすっかり頭から吹っ飛んでしまったのだ。「そんな目で僕を見ないでくれよ、ハーマイオニー。あの手紙からは誰も秘ひ密みつの情報なんて読み取れやしない。そうだよね、シリウスおじさん」
「ああ、あの手紙はとても上う手まかった」シリウスがにっこりした。「とにかく、邪魔じゃまが入らないうちに、急いだほうがいい――君の傷きず痕あとだが」
「それが何か――」ロンが言いかけたが、ハーマイオニーが遮さえぎった。
「あとで教えてあげる。シリウス、続けて」
「ああ、痛むのはいい気持じゃないのはよくわかる。しかし、それほど深刻しんこくになる必要はないと思う。去年はずっと痛みが続いていたのだろう」
「うん。それに、ダンブルドアは、ヴォルデモートが強い感情を持ったときに必ず痛むと言っていた」ハリーが言った。ロンとハーマイオニーがぎくりとするのを、いつものように無む視しした。「だから、わからないけど、たぶん、僕が罰則ばっそくを受けていたあの夜、あいつが本当に怒っていたとかじゃないかな」
「そうだな。あいつが戻ってきたからには、もっと頻繁ひんぱんに痛むことになるだろう」シリウスが言った。