「こんにちは。トレローニー先生」アンブリッジ先生がお得意のにっこり顔をした。「わたくしのメモを受け取りましたわね 査察ささつの日時をお知らせしましたけど」
トレローニー先生はいたくご機き嫌げん斜ななめの様子で素そっ気けなく頷うなずき、アンブリッジ先生に背を向けて教科書配りを続けた。アンブリッジ先生はにっこりしたまま手近の肘ひじ掛かけ椅い子すの背をぐいとつかみ、教室の一番前まで椅子を引っ張って行き、トレローニー先生の椅子にほとんどくっつきそうなところに置いた。それから腰を掛かけ、花模様もようのバッグからクリップボードを取り出し、さあどうぞと期待顔でクラスの始まるのを待った。
トレローニー先生は微かすかに震ふるえる手でショールを固く体に巻きつけ、拡かく大だい鏡きょうのようなレンズを通して生徒たちを見渡した。
「今日は、予よ兆ちょう的てきな夢のお勉強を続けましょう」
先生は気き丈じょうにも、いつもの神しん秘ぴ的てきな調子を保とうとしていたが、声が微かすかに震えていた。
「二人ずつ組になってくださいましね。『夢のお告げ』を参考になさって、一番最近ご覧らんになった夜の夢ゆめ幻まぼろしを、お互いに解かい釈しゃくなさいな」
トレローニー先生は、スイーッと自分の椅子に戻るような素そ振ぶりを見せたが、すぐそばにアンブリッジ先生が座っているのを見ると、たちまち左に向きを変え、パーバティとラベンダーのほうに行った。二人はもう、パーバティの最近の夢について熱心に話し合っていた。
ハリーは、「夢のお告げ」の本を開き、こっそりアンブリッジのほうを窺うかがった。もうクリップボードに何か書き留めている。数分後、アンブリッジは立ち上がって、トレローニーの後ろにくっつき、教室を回りはじめ、先生と生徒の会話を聞いたり、あちらこちらで生徒に質問したりした。ハリーは急いで本の陰かげに頭を引っ込めた。