「そうですわね」またメモを取りながら、アンブリッジ先生が甘い声で言った。「さあ、それではわたくしのために、何か予言してみてくださる」にっこり顔のまま、アンブリッジ先生が探るような目をした。
トレローニー先生は、我と我が耳を疑うかのように身を強張こわばらせた。
「おっしゃることがわかりませんわ」
先生は発ほっ作さ的てきに、がりがりに痩やせた首に巻きつけたショールをつかんだ。
「わたくしのために、予言を一つしていただきたいの」アンブリッジ先生がはっきり言った。
教科書の陰かげからこっそり様子を窺うかがい聞き耳を立てているのは、いまやハリーとロンだけではなかった。ほとんどクラス全員の目が、トレローニー先生に釘くぎづけになっていた。先生はビーズや腕輪うでわをジャラつかせながら、ぐーっと背筋せすじを伸ばした。
「『内うちなる眼め』は、命令で『予見』したりいたしませんわ」とんでもない恥ち辱じょくとばかりの答えだった。
「結構けっこう」アンブリッジ先生はまたまたクリップボードにメモを取りながら、静かに言った。
「あたくし――でも――でも……お待ちになって」突然トレローニー先生が、いつもの霧きりの彼方かなたのような声を出そうとした。しかし、怒りで声が震ふるえ、神しん秘ぴ的てきな効果こうかがいくらか薄うすれていた。「あたくし……あたくしには何か見えますわ……何かあなたに関するものが……なんということでしょう。何か感じますわ……何か暗いもの……何か恐ろしい危き機きが……」
トレローニー先生は震える指でアンブリッジ先生を指したが、アンブリッジ先生は眉まゆをきゅっと吊つり上げ、感情のないにっこり笑いを続けていた。
「お気の毒に……まあ、あなたは恐ろしい危機に陥おちいっていますわ」トレローニー先生は芝居しばいがかった言い方で締しめ括くくった。
しばらく間が空あき、アンブリッジ先生の眉は吊り上がったままだった。
「そう」アンブリッジ先生はもう一度クリップボードにさらさらと書きつけながら、静かに言った。「まあ、それが精せい一いっ杯ぱいということでしたら……」
アンブリッジ先生はその場を離はなれ、あとには胸を波打たせながら、根が生はえたように立ち尽くすトレローニー先生だけが残された。ハリーはロンと目を合わせた。そして、ロンがまったく自分と同じことを考えていると思った。トレローニー先生がいかさまだということは、二人とも百も承しょう知ちだったが、アンブリッジをひどく嫌っていたので、トレローニーの肩を持ちたい気分だったのだ――しかしそれも、数すう秒びょう後ごにトレローニーが二人に襲おそいかかるまでのことだった。