アンブリッジ先生も気づいていたが、それだけでなく、そうした事態じたいに備そなえて戦せん略りゃくを練ねってきたようだった。ハーマイオニーに気づかないふりをする代わりに、アンブリッジ先生は立ち上がって前の座席ざせきを通り過ぎ、ハーマイオニーの真正面に来て、他の生徒に聞こえないように、体を屈かがめて囁ささやいた。「ミス・グレンジャー、こんどは何ですか」
「第二章はもう読んでしまいました」ハーマイオニーが言った。
「さあ、それなら、第三章に進みなさい」
「そこも読みました。この本は全部読んでしまいました」
アンブリッジ先生は目をパチパチさせたが、たちまち平静へいせいを取り戻した。
「さあ、それでは、スリンクハードが第十五章で逆ぎゃく呪のろいについて何と書いているか言えるでしょうね」
「著者ちょしゃは、逆ぎゃく呪のろいという名前は正確ではないと述べています」ハーマイオニーが即座そくざに答えた。「著者ちょしゃは、逆ぎゃく呪のろいというのは、自分自身がかけた呪いを受け入れやすくするためにそう呼んでいるだけだと書いています」
アンブリッジ先生の眉まゆが上がった。意に反して、感心してしまったのだとハリーにはわかった。
「でも、私はそう思いません」ハーマイオニーが続けた。
アンブリッジ先生の眉がさらに少し吊つり上がり、目つきがはっきりと冷たくなった。
「そう思わないの」
「思いません」
ハーマイオニーはアンブリッジと違って、はっきりと通る声だったので、いまやクラス中の注目を集めていた。
「スリンクハード先生は呪いそのものが嫌いなのではありませんか でも、私は、防ぼう衛えいのために使えば、呪いはとても役に立つ可能性があると思います」
「おーや、あなたはそう思うわけ」アンブリッジ先生は囁ささやくことも忘れて、体を起こした。
「さて、残念ながら、この授業で大切なのは、ミス・グレンジャー、あなたの意見ではなく、スリンクハード先生のご意見です」
「でも――」ハーマイオニーが反論はんろんしかけた。
「もう結構けっこう」アンブリッジ先生はそう言うなり教室の前に戻り、生徒のほうを向いて立った。授業の前に見せた上じょう機き嫌げんは吹き飛んでいた。
「ミス・グレンジャー、グリフィンドール寮りょうから五点減点げんてんいたしましょう」
とたんにクラスが騒然そうぜんとなった。