「黙だまって聞けよ。いいかい そんな言い方をすれば、なんだかすごいことに聞こえるけど、みんな運がよかっただけなんだ――半分ぐらいは、自分が何をやっているかわからなかった。どれ一つとして計画的にやったわけじゃない。たまたま思いついたことをやっただけだ。それに、ほとんどいつも、何かに助けられたし――」
ロンもハーマイオニーも相変わらずニヤニヤしているので、ハリーは自分がまた癇かん癪しゃくを起こしそうになっているのに気づいた。なぜそんなに腹が立つのか、自分でもよくわからなかった。
「わかったような顔をしてニヤニヤするのはやめてくれ。その場にいたのは僕なんだ」
ハリーは熱くなった。
「いいか 何が起こったかを知ってるのは僕だ。それに、どの場合でも、僕が、『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』がすばらしかったから切り抜けられたんじゃない。なんとか切り抜けたのは――それは、ちょうど必要なときに助けが現れて、それに、僕の山勘やまかんが当たったからなんだ――だけど、ぜんぶやみくもに切り抜けたんだ。自分が何をやったかなんて、これっぽちもわかってなかった――ニヤニヤするのはやめろってば」
マートラップ液えきのボウルが床に落ちて割れた。ハリーは、自分が立ち上がっていたことに気づいたが、いつ立ち上がったか覚えがなかった。クルックシャンクスはさっとソファーの下に逃げ込み、ロンとハーマイオニーの笑いが吹き飛んだ。
「君たちはわかっちゃいない 君たちは――どっちもだ――あいつと正面切って対決したことなんかないじゃないか。まるで授業なんかでやるみたいに、ごっそり呪じゅ文もんを覚えて、あいつに向かって投げつければいいなんて考えてるんだろう ほんとにその場になったら、自分と死との間に、防ふせいでくれるものなんか何にもない。――自分の頭と、肝きもっ玉と、そういうものしか――ほんの一いっ瞬しゅんしかないんだ。殺されるか、拷問ごうもんされるか、友達が死ぬのを見せつけられるか、そんな中で、まともに考えられるもんか――授業でそんなことを教えてくれたことはない。そんな状況にどう立ち向かうかなんて――。それなのに、君たちは暢気のんきなもんだ。まるで僕がこうして生きているのは賢かしこい子だったからみたいに。ディゴリーはばかだったからしくじったみたいに――。君たちはわかっちゃいない。紙かみ一ひと重えで僕が殺やられてたかもしれないんだ。ヴォルデモートが僕を必要としてなかったら、そうなっていたかもしれないんだ――」
「なあ、おい、僕たちは何もそんなつもりで」ロンは仰ぎょう天てんしていた。「何もディゴリーをコケにするなんて、そんなつもりは――君、思い違いだよ――」
ロンは助けを求めるようにハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは自分の感情の昂たかぶりに打ちのめされたような顔をしていた。
「ハリー」ハーマイオニーがおずおずと言った。「わからないの だから……だからこそ私たちにはあなたが必要なの……私たち、知る必要があるの。ほ、本当はどういうことなのかって……あの人と直面するってことが……ヴォ、ヴォルデモートと」
ハーマイオニーが、ヴォルデモートと名前を口にしたのは初めてだった。そのことが、他の何よりも、ハリーの気持を落ち着かせた。息を荒あららげたままだったが、ハリーはまた椅子に座った。そのとき初めて、再び手がズキズキと疼うずいていることに気づいた。マートラップ液えきのボウルを割らなければよかったと後悔こうかいした。