「はっきりさせようか」カバンを床の上に戻しながら、ハリーが怒ったように言った。「シリウスが賛成した。だから君は、もうあれはやらないほうがいいと思ったのか」
ハーマイオニーは緊きん張ちょうした情けなさそうな顔をしていた。こんどは両手をじっと見つめながら、ハーマイオニーが言った。
「本気でシリウスの判断力を信用してるの」
「ああ、信用してる」ハリーは即座そくざに答えた。「いつでも僕たちにすばらしいアドバイスをしてくれた」
インクのつぶてが三人をシュッと掠かすめて、ケイティ・ベルの耳を直ちょく撃げきした。ハーマイオニーは、ケイティが勢いよく立ち上がって、ピーブズにいろいろなものを投げつけるのを眺ながめ、しばらく黙だまっていたが、言葉を慎しん重ちょうに選びながら話しはじめた。
「グリモールド・プレイスに閉じ込められてから……シリウスが……ちょっと……無謀むぼうになった……そう思わない ある意味で……こう考えられないかしら……私たちを通して生きているんじゃないかって」
「どういうことなんだ 『僕たちを通して生きている』って」ハリーが言い返した。
「それは……つまり、魔法省直ちょく属ぞくの誰かの鼻先で、シリウス自身が秘ひ密みつの防ぼう衛えい結社けっしゃを作りたいんだろうと思うの……いまの境きょう遇ぐうではほとんど何もできなくて、シリウスは本当に嫌気いやけがさしているんだと思うわ……それで、なんと言うか……私たちをけしかけるのに熱心になっているような気がするの」
ロンは当惑とうわくし切った顔をした。
「シリウスの言うとおりだ」ロンが言った。「君って、ほんとにママみたいな言い方をする」
ハーマイオニーは唇くちびるを噛かみ、何も言わなかった。ピーブズがケイティに襲おそいかかり、インク瓶びんの中身をそっくり全部その頭にぶちまけたとき、始業のベルが鳴った。