「誰かに言わなくちゃ」ロンが言った。
「この前はシリウスに言った」
「今回のことも言えよ」
「できないよ」ハリーが暗い顔で言った。「アンブリッジがふくろうも暖炉だんろも見張ってる。そうだろ」
「じゃ、ダンブルドアだ」
「いま、言ったろう。ダンブルドアはもう知ってる」
ハリーは気き短みじかに答えて立ち上がり、マントを壁かべの釘くぎからはずして肩に引ひっ掛かけた。
「また言ったって意味ないよ」
ロンはマントのボタンを掛け、考え深げにハリーを見た。
「ダンブルドアは知りたいだろうと思うけど」ロンが言った。
ハリーは肩をすくめた。
「さあ……これから『黙だまらせ呪じゅ文もん』の練習をしなくちゃ」
泥どろんこの芝生しばふを滑すべったり躓つまずいたりしながら、二人は話をせずに、急いで暗い校庭を戻った。ハリーは必死で考えた。いったいヴォルデモートがさせたがっていること、そして思うように進まないこととは何だろう
「……ほかにも求めているものがある……やつがまったく極秘ごくひで進めることができる計画だ……極秘にしか手に入らないものだ……武器のようなものというかな。前の時には持っていなかったものだ」
この言葉を何週間も忘れていた。ホグワーツでのいろいろな出来事にすっかり気を取られ、アンブリッジとの目下もっかの戦いや、魔法省のさまざまな不当な干かん渉しょうのことを考えるのに忙殺ぼうさつされていた……しかし、いま、この言葉が蘇よみがえり、ハリーはもしやと思った……ヴォルデモートが怒っているのも、何だかわからないその武器にまったく近づくことができないからと考えれば辻褄つじつまが合う。騎き士し団だんはあいつの目もく論ろ見みを挫くじき、それが手に入らないように阻そ止ししてきたのだろうか それはどこに保管ほかんされているのだろう いま、誰が持っているのだろう
「ミンビュラス ミンブルトニア」
ロンの声がしてハリーは我に返り、肖しょう像ぞう画がの穴を通って談だん話わ室しつに入った。
ハーマイオニーは早めに寝室しんしつに行ってしまったらしい。残っていたのは、近くの椅子に丸まっているクルックシャンクスと、暖炉だんろのそばのテーブルに置かれた、さまざまな形の凸凹でこぼこしたしもべ妖よう精せい用毛糸帽子ぼうしだけだった。ハリーはハーマイオニーがいないのがかえってありがたかった。傷きず痕あとの痛みを議論ぎろんするのも、ダンブルドアのところへ行けとハーマイオニーに促うながされるのもいやだった。ロンはまだ心配そうな目でちらちらハリーを見ていたが、ハリーは呪じゅ文もん集しゅうを引っ張り出し、レポートを仕上げる作業に取りかかった。もっとも、集中しているふりをしていただけで、ロンがもう寝室に行くと言ったときにも、ハリーはまだほとんど何も書いてはいなかった。