「ちょっと待って――ドビー、君に助けてもらいたいことがあるよ」ある考えが浮かび、ハリーはゆっくりと言った。
ドビーは向き直って、にっこりした。
「なんでもおっしゃってください。ハリー・ポッターさま」
「場所を探しているんだ。二十八人が『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』を練習できる場所で、先生方に見つからないところ。とくに」ハリーは本の上で固く拳こぶしを握にぎった。傷きず痕あとが蒼あお白じろく光った。「アンブリッジ先生には」
ドビーの顔から笑いが消えて、両耳がうなだれるだろうとハリーは思った。無理です、とか、どこか探してみるがあまり期待は持たないように、と言うだろうと思った。まさか、ドビーが両耳をうれしそうにパタパタさせ、ピョンと小躍こおどりするとは、まさか両手を打ち鳴らそうとは、思ってもみなかった。
「ドビーめは、ぴったりな場所を知っております。はい」ドビーはうれしそうに言った。「ドビーめはホグワーツに来たとき、ほかの屋敷やしきしもべ妖よう精せいが話しているのを聞きました。はい。仲なか間ま内うちでは『あったりなかったり部屋』とか、『必要の部屋』として知られております」
「どうして」ハリーは好こう奇き心しんに駆かられた。
「なぜなら、その部屋に入れるのは」ドビーは真剣しんけんな顔だ。「本当に必要なときだけなのです。ときにはありますが、ときにはない部屋でございます。それが現れるときには、いつでも求める人のほしいものが備そなわっています。ドビーめは、使ったことがございます」
しもべ妖精は声を落とし、悪いことをしたような顔をした。
「ウィンキーがとっても酔よったときに。ドビーはウィンキーを『必要の部屋』に隠しました。そうしたら、ドビーは、バタービールの酔い覚まし薬をそこで見つけました。それに、眠って酔いを覚ます間寝かせるのにちょうどよい、しもべ妖精サイズのベッドがあったのでございます……それに、フィルチさまは、お掃そう除じ用よう具ぐが足りなくなったとき、そこで見つけたのを、はい、ドビーは存ぞんじています。そして――」
「そして、ほんとにトイレが必要なときは」ハリーは急に、去年のクリスマス・パーティで、ダンブルドアが言ったことを思い出した。「その部屋はおまるで一いっ杯ぱいになる」
「ドビーめは、そうだと思います。はい」ドビーは一いっ所しょ懸けん命めい頷うなずいた。「驚おどろくような部屋でございます」
「そこを知っている人はどのぐらいいるのかな」ハリーは椅子に座り直した。
「ほとんどおりません。だいたいは、必要なときにたまたまその部屋に出くわします。はい。でも、二度と見つからないことが多いのです。なぜなら、その部屋がいつもそこにあって、お呼びがかかるのを待っているのを知らないからでございます」
「すごいな」ハリーは心臓がドキドキした。「ドビー、ぴったりだよ。部屋がどこにあるのか、いつ教えてくれる」
「いつでも。ハリー・ポッターさま」ハリーが夢中なので、ドビーはうれしくてたまらない様子だ。「よろしければ、いますぐにでも」
一いっ瞬しゅん、ハリーはドビーと一いっ緒しょに行きたいと思った。上の階から急いで「透とう明めいマント」を取ってこようと、椅子から半分腰を浮かした。そのとき、またしても、ちょうどハーマイオニーが囁ささやくような声が耳元で聞こえた。向こう見ず。考えてみれば、もう遅おそいし、ハリーは疲れ切っていた。
「ドビー、今夜はだめだ」ハリーは椅子に沈み込みながら、しぶしぶ言った。「これはとっても大切なことなんだ……しくじりたくない。ちゃんと計画する必要がある。ねえ、『必要ひつようの部へ屋や』の正確な場所と、どうやって入るのかだけ教えてくれないかな」