「ねーえ、ハリー」部屋の向こう端から、ハーマイオニーが呼びかけた。「時間は大だい丈じょう夫ぶ」
時計を見て、ハリーは驚いた。もう九時十分過ぎだった。すぐに談だん話わ室しつに戻らないと、フィルチに捕つかまって、規則きそく破りで処罰しょばつされる恐れがある。ハリーはホイッスルを吹き、みんなが「エクスペリアームス」の叫さけびをやめ、最後に残った杖つえが二、三本、カタカタと床に落ちた。
「うん、とってもよかった」ハリーが言った。「でも、時間オーバーだ。もうこのへんでやめたほうがいい。来週、同じ時間に、同じ場所でいいかな」
「もっと早く」ディーン・トーマスがうずうずしながら言った。そうだそうだと、頷うなずく生徒も多かった。
しかし、アンジェリーナがすかさず言った。「クィディッチ・シーズンが近い。こっちも練習が必要だよ」
「それじゃ、こんどの水曜日だ」ハリーが言った。「練習を増やすなら、そのとき決めればいい。さあ、早く出よう」
ハリーはまた「忍しのびの地図」を引っ張り出し、八階に誰か先生はいないかと、慎しん重ちょうに調べた。それから、みんなを三人から四人の組にして外に出し、全員が無事に寮りょうに着いたかどうかを確認かくにんするのに、地図上の小さな点をはらはらしながら見つめた。ハッフルパフ生は厨ちゅう房ぼうに通じているのと同じ地下の廊下ろうかへ、レイブンクロー生は城の西側の塔とうへ、そしてグリフィンドール生は「太った婦人レディ」の肖しょう像ぞう画がに通じる廊下へ。
「ほんとに、とってもよかったわよ、ハリー」最後にハリー、ロンと三人だけが残ったとき、ハーマイオニーが言った。
「うん、そうだとも」扉とびらをすり抜けながら、ロンが熱を込めて言った。
三人は扉を通り抜け、それが何の変哲へんてつもない元の石壁いしかべに戻るのを見つめた。
「僕がハーマイオニーの武ぶ装そう解かい除じょしたの、ハリー、見た」
「一回だけよ」ハーマイオニーが傷きずついたように言った。「私のほうが、あなたよりずっと何回も――」
「一回だけじゃないぜ。少なくとも三回は――」
「あーら、あなたが自分で自分の足に躓つまずいて、その拍ひょう子しに私の手から杖つえを叩たたき落としたのを含めればだけど――」
二人は談だん話わ室しつに戻るまで言い争っていた。しかしハリーは聞いていなかった。半分は「忍しのびの地図」に目を向けていたせいもあるが、チョウが言ったことを考えていたのだ――ハリーのせいで上がってしまったと。