「なんだって 吸魂鬼に襲われた」ハグリッドが唸うなった。
「知らなかったの」ハーマイオニーが目を丸くした。
「ここを出てから起こったことは、なんも知らん。秘ひ密みつの使命だったんだぞ。ふくろうがどこまでもついて来るようじゃ困るだろうが――吸きゅう魂こん鬼きのやつが 冗じょう談だんだろうが」
「本当なんだ。リトル・ウィンジングに現れて、僕といとこを襲ったんだ。それから魔法省が僕を退学にして――」
「なにぃ」
「――それから尋じん問もんに呼び出されてとか、いろいろ。だけど、最初に巨人の話をしてよ」
「退学になった」
「ハグリッドがこの夏のことを話してくれたら、僕のことも話すよ」
ハグリッドは開あいているほうの目でハリーをギロリと見た。ハリーは、一途いちずに思いつめた顔でまっすぐその目を見返した。
「しかたがねえ」観念かんねんしたような声でハグリッドが言った。
ハグリッドは屈かがんで、ドラゴンの生肉をファングの口からぐいともぎ取った。
「まあ、ハグリッド。だめよ。不潔ふけつじゃな――」ハーマイオニーが言いかけたときには、ハグリッドはもう腫はれた目に生肉をべたりと貼はりつけていた。
元気づけに紅茶をもう一口がぶりと飲み、ハグリッドが話し出した。
「さて、俺おれたちは、学期が終るとすぐ出発した――」
「それじゃ、マダム・マクシームが、一いっ緒しょだったのね」ハーマイオニーが口を挟はさんだ。
「ああ、そうだ」
ハグリッドの顔に――ひげと緑の生肉に覆おおわれていない部分はわずかだったが――和やわらいだ表情が浮かんだ。
「そうだ。二人だけだ。言っとくが、ええか、あの女ひとは、どんな厳きびしい条件もものともせんかった。オリンペはな。ほれ、あの女ひとは身なりのええ、きれいな女ひとだし、俺たちがどんなところに行くのかを考えると、『野に伏ふし、岩を枕にする』のはどんなもんかと、俺は訝いぶかっとった。ところが、あの女ひとは、ただの一度も弱音よわねを吐はかんかった」
「行き先はわかっていたの」ハリーが聞いた。「巨人がどこにいるか知っていたの」
「いや、ダンブルドアが知っていなさった。で、俺たちに教えてくれた」ハグリッドが言った。
「巨人て、隠れてるの」ロンが聞いた。「秘密なの 居い場ば所しょは」
「そうでもねえ」ハグリッドがもじゃもじゃ頭を振った。「たいていの魔法使いは、連中が遠くに離はなれてさえいりゃあ、どこにいるかなんて気にしねえだけだ。ただ、連中のいる場所は簡単には行けねえとこだ。少なくともヒトにとってはな。そこで、ダンブルドアに教えてもらう必要があった。一ヵ月かかったぞ。そこに着くまでに――」
「一ヵ月」
ロンはそんなにバカげた時間がかかる旅なんて、聞いたことがないという声を出した。
「だって――移動ポートキーとか何か使えばよかったんじゃないの」
ハグリッドは隠れていないほうの目を細め、妙みょうな表情を浮かべてロンを見た。ほとんど哀あわれんでいるような目だった。