「ハグリッド」しばらくしてハーマイオニーが静かに言った。
「んー」
「あなたの……何か手て掛がかりは……そこにいる間に……耳にしたのかしら……あなたの……お母さんのこと」
ハグリッドは開あいているほうの目で、じっとハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは気が挫くじけてしまったようだった。
「ごめんなさい……私……忘れてちょうだい――」
「死んだ」ハグリッドがボソッと言った。「何年も前に死んだ。連中が教えてくれた」
「まあ……私……ほんとにごめんなさい」ハーマイオニーが消え入るような声で言った。ハグリッドはがっしりした肩をすくめた。
「気にすんな」ハグリッドは言葉少なに言った。「あんまりよく憶おぼえてもいねえ。いい母親じゃぁなかった」
みんながまた黙だまり込こんだ。ハーマイオニーが、何かしゃべってと言いたげに、落ち着かない様子でハリーとロンをちらちら見た。
「だけど、ハグリッド、どうしてそんなふうになったのか、まだ説明してくれていないよ」ロンが、ハグリッドの血だらけの顔を指しながら言った。
「それに、どうしてこんなに帰りが遅おそくなったのかも」ハリーが言った。「シリウスが、マダム・マクシームはとっくに帰ってきたって言ってた――」
「誰に襲おそわれたんだい」ロンが聞いた。
「襲われたりしてねえ」ハグリッドが語ご気きを強めた。「俺おれは――」
そのあとの言葉は、突然誰かが戸をドンドン叩たたく音に呑のみ込まれてしまった。ハーマイオニーが息を呑んだ。手にしたマグが指の間を滑すべり、床に落ちて砕くだけ、ファングがキャンキャン鳴いた。四人全員が戸口の脇わきの窓を見つめた。ずんぐりした背の低い人影ひとかげが、薄うすいカーテンを通して揺ゆらめいていた。
「あの女だ」ロンが囁ささやいた。
「この中に入って」
ハリーは早口にそう言いながら、透とう明めいマントをつかんでハーマイオニーにさっと被かぶせ、ロンもテーブルを急いで回り込んで、マントの中に飛び込んだ。三人は、塊かたまって部屋の隅すみに引っ込んだ。ファングは狂ったように戸口に向かって吠ほえていた。ハグリッドはさっぱりわけがわからないという顔をしていた。
「ハグリッド、僕たちのマグを隠して」
ハグリッドはハリーとロンのマグをつかみ、ファングの寝るバスケットのクッションの下に押し込んだ。ファングはいまや、戸に飛びかかっていた。ハグリッドは足でファングを脇に押しやり、戸を引いて開けた。