「声が聞こえたわ」アンブリッジが静かに言った。
「俺おれがファングと話してた」ハグリッドが頑がんとして言った。
「それで、ファングが受け答えしてたの」
「そりゃ……言ってみりゃ」ハグリッドはうろたえていた。「ときどき俺は、ファングのやつがほとんどヒト並みだと言っとるぐれえで――」
「城の玄げん関かんからあなたの小屋まで、雪の上に足跡あしあとが三人分ありました」アンブリッジはすらりと言った。
ハーマイオニーがあっと息を呑のんだ。その口を、ハリーがパッと手で覆おおった。運よく、ファングがアンブリッジ先生のローブの裾すそを、鼻息荒く嗅かぎ回っていたおかげで、気づかれずにすんだようだった。
「さーて、俺はたったいま帰ったばっかしで」ハグリッドはどでかい手を振って、雑嚢ざつのうを指した。「それより前に誰か来たかもしれんが、会えなかったな」
「あなたの小屋から城までの足跡はまったくありませんよ」
「はて、俺は……俺にはどうしてそうなんか、わからんが……」
ハグリッドは神しん経けい質しつに顎あごひげを引っ張り、助けを求めるかのように、またしてもちらりと、ハリー、ロン、ハーマイオニーが立っている部屋の隅すみを見た。
「うむむ……」
アンブリッジはさっと向きを変え、注意深くあたりを見回しながら、小屋の端はしから端までずかずか歩いた。体を屈かがめてベッドの下を覗のぞき込こんだり、戸棚とだなを開けたりした。三人が壁かべに張りついて立っている場所からほんの数センチのところをアンブリッジが通り過ぎたとき、ハリーは本当に腹を引っ込めた。ハグリッドが料理に使う大おお鍋なべの中を綿密めんみつに調べた後のち、アンブリッジはまた向き直ってこう言った。
「あなた、どうしたの どうしてそんな大おお怪け我がをしたのですか」
ハグリッドは慌あわててドラゴンの生肉を顔から離はなした。離さなきゃいいのに、とハリーは思った。おかげで目の周りのどす黒い傷きずが剥むき出しになったし、当然、顔にべっとりついた血糊ちのりも、生傷なまきずから流れる血もはっきり見えた。
「なに、その……ちょいと事故で」ハグリッドは歯切れが悪かった。
「どんな事故なの」
「あ――躓つまずいて転んだ」
「躓いて転んだ」アンブリッジが冷静れいせいに繰くり返した。
「ああ、そうだ。蹴けっ躓いて……友達の箒ほうきに。俺は飛べねえから。なにせ、ほれ、この体だ。俺を乗っけられるような箒はねえだろう。友達がアブラクサン馬ばを飼育しいくしててな。おまえさん、見たことがあるかどうか知らねえが、ほれ、羽のあるおっきなやつだ。俺はちょっくらそいつに乗ってみた。そんで――」