「あなた、どこに行っていたの」
アンブリッジは、ハグリッドのしどろもどろにぐさりと切り込んだ。
「どこに――」
「行っていたか。そう」アンブリッジが言った。「学校は二ヵ月前に始まっています。あなたのクラスはほかの先生が代わりに教えるしかありませんでしたよ。あなたがどこにいるのか、お仲間なかまの先生は誰もご存知ぞんじないようでしてね。あなたは連れん絡らく先も置いていかなかったし。どこに行っていたの」
一いっ瞬しゅん、ハグリッドは、剥むき出しになったばかりの目でアンブリッジをじっと見つめ、黙だまり込んだ。ハリーは、ハグリッドの脳みそが必死に働いている音が聞こえるような気がした。
「お――俺おれは、健康上の理由で休んでた」
「健康上の」
アンブリッジの目がハグリッドのどす黒く腫はれ上がった顔を探るように眺ながめ回した。ドラゴンの血が、ポタリポタリと静かにハグリッドのベストに滴したたっていた。
「そうですか」
「そうとも」ハグリッドが言った。「ちょいと――新鮮しんせんな空気を、ほれ――」
「そうね。家か畜ちく番ばんは、新鮮な空気がなかなか吸すえないでしょうしね」アンブリッジが猫撫ねこなで声で言った。ハグリッドの顔にわずかに残っていた、どす黒くない部分が赤くなった。
「その、なんだ――場所が変われば、ほれ――」
「山の景色けしきとか」アンブリッジが素早すばやく言った。
知ってるんだ。ハリーは絶ぜつ望ぼう的てきにそう思った。
「山」ハグリッドはすぐに悟さとったらしく、オウム返しに言った。「うんにゃ、俺の場合は南フランスだ。ちょいと太陽と……海だな」
「そう」アンブリッジが言った。「あんまり日ひ焼やけしていないようね」
「ああ……まあ……皮ひ膚ふが弱いんで」
ハグリッドはなんとか愛あい想そ笑わらいをして見せた。ハリーは、ハグリッドの歯が二本折れているのに気づいた。アンブリッジは冷たくハグリッドを見た。ハグリッドの笑いが萎しぼんだ。アンブリッジは、腕に掛かけたハンドバッグを少し上にずり上げながら言った。
「もちろん、大臣には、あなたが遅おくれて戻ったことをご報告します」
「ああ」ハグリッドが頷うなずいた。
「それに、高こう等とう尋じん問もん官かんとして、残念ながら、わたくしは同どう僚りょうの先生方を査察ささつするという義ぎ務むがあることを認識にんしきしていただきましょう。ですから、まもなくまたあなたにお目にかかることになると申し上げておきます」
アンブリッジはくるりと向きを変え、戸口に向かって闊歩かっぽした。
「おまえさんが俺たちを査察」ハグリッドは呆然ぼうぜんとその後ろ姿を見ながら言った。
「ええ、そうですよ」
アンブリッジは戸の取っ手に手を掛かけながら、振り返って静かに言った。
「魔法省はね、ハグリッド、教師として不ふ適てき切せつな者を取り除のぞく覚悟かくごです。では、おやすみ」
アンブリッジは戸をバタンと閉めて立ち去った。