ハグリッドがもう一度甲高く叫んだ。一分経たった。その間、生徒全員が神経を尖らせ、肩越しに背後を窺うかがったり、木々の間を透すかし見たりして、近づいてくるはずの何かの姿を捕とらえようとしていた。そして、ハグリッドが三度みたび髪を振り払い、巨大な胸をさらに膨ふくらませたとき、ハリーはロンを突つき、曲がりくねった二本のイチイの木の間の暗がりを指差した。
暗がりの中で、白く光る目が一対いっつい、だんだん大きくなってきた。まもなく、ドラゴンのような顔、首、そして、翼つばさのある大きな黒い馬の骨ばった胴体どうたいが、暗がりから姿を現した。その生き物は、黒く長い尾を振りながら、数秒間生徒たちを眺ながめ、それから頭を下げて、尖った牙きばで死んだ牛の肉を食いちぎりはじめた。
ハリーの胸にどっと安あん堵ど感かんが押し寄せた。とうとう証しょう明めいされた。この生き物は、ハリーの幻想げんそうではなく実在じつざいしていた。ハグリッドもこの生き物を知っていた。ハリーは待ち切れない気持でロンを見た。しかし、ロンはまだキョロキョロ木々の間を見つめていた。しばらくしてロンが囁ささやいた。
「ハグリッドはどうしてもう一度呼ばないのかな」
生徒のほとんどが、ロンと同じように、怖こわい物見たさの当惑とうわくした表情で目を凝こらし、馬が目と鼻の先にいるのに、とんでもない方向ばかり見ていた。この生き物が見える様子なのは、ハリーのほかには二人しかいなかった。ゴイルのすぐ後ろで、スリザリンの筋すじばった男の子が、馬が食らいつく姿を苦々にがにがしげに見ていた。それに、ネビルだ。その目が、長い黒い尾の動きを追っていた。
「ほれ、もう一頭来たぞ」ハグリッドが自慢じまんげに言った。暗い木この間まから現れた二頭目の黒い馬が、鞣なめし革がわのような翼つばさを畳たたんで胴体どうたいにくっつけ、頭を突っ込んで肉にかぶりついた。
「さーて……手を挙あげてみろや。こいつらが見える者もんは」
この馬の謎なぞがついにわかるのだと思うとうれしくて、ハリーは手を挙げた。ハグリッドがハリーを見て頷うなずいた。
「うん……うん。おまえさんにゃ見えると思ったぞ、ハリー」ハグリッドはまじめな声を出した。「そんで、おまえさんもだな ネビル、ん そんで――」
「お伺うかがいしますが」マルフォイが嘲あざけるように言った。「いったい何が見えるはずなんでしょうね」
答える代わりに、ハグリッドは地面の牛の死骸しがいを指差した。クラス中が一いっ瞬しゅんそこに注目した。そして何人かが息を呑のみ、パーバティは悲鳴ひめいを上げた。ハリーはそれがなぜなのかわかった。肉が独ひとりでに骨から剥はがれ空中に消えていくさまは、いかにも気味が悪いに違いない。