「何がいるの」パーバティが後退あとずさりして近くの木の陰かげに隠れ、震ふるえる声で聞いた。「何が食べているの」
「セストラルだ」ハグリッドが誇ほこらしげに言った。ハリーのすぐ隣となりで、ハーマイオニーが、納得なっとくしたように「あっ」と小さな声を上げた。「ホグワーツのセストラルの群れは、全部この森にいる。そんじゃ、誰か知っとる者は――」
「だけど、それって、とーっても縁起えんぎが悪いのよ」パーバティがとんでもないという顔で口を挟はさんだ。「見た人にありとあらゆる恐ろしい災難さいなんが降ふりかかるって言われてるわ。トレローニー先生が一度教えてくださった話では――」
「いや、いや、いや」ハグリッドがクックッと笑った。「そりゃ、単なる迷信めいしんだ。こいつらは縁起が悪いんじゃねえ。どえらく賢かしこいし、役に立つ もっともこいつら、そんなに働いてるわけではねえがな。重要なんは、学校の馬車牽ひきだけだ。あとは、ダンブルドアが遠出とおでするのに、『姿すがた現あらわし』をなさらねえときだけだな――ほれ、また二頭来たぞ――」
木この間まから別の二頭が音もなく現れた。一頭がパーバティのすぐそばを通ると、パーバティは身震みぶるいして、木にしがみついた。「私、何か感じたわ。きっとそばにいるのよ」
「心配ねえ。おまえさんに怪け我がさせるようなことはしねえから」ハグリッドは辛抱しんぼう強く言い聞かせた。「よし、そんじゃ、知っとる者はいるか どうして見える者と見えない者がおるのか」
ハーマイオニーが手を挙げた。
「言ってみろ」ハグリッドがにっこり笑いかけた。
「セストラルを見ることができるのは」ハーマイオニーが答えた。「死を見たことがある者だけです」
「そのとおりだ」ハグリッドが厳おごそかに言った。「グリフィンドールに十点。さーて、セストラルは――」
「ェヘン、ェヘン」
アンブリッジ先生のお出ましだ。ハリーからほんの数十センチのところに、また緑の帽子ぼうしとマントを着て、クリップボードを構かまえて立っていた。アンブリッジの空咳からぜきを初めて聞いたハグリッドは、一番近くのセストラルを心配そうにじっと見た。変な音を出したのはそれだと思ったらしい。
「ェヘン、ェヘン」
「おう、やあ」音の出所がわかったハグリッドがにっこりした。