うに、大きな声でゆっくり話しかけた。まるで外国人に、しかもとろい人間に話しかけているようだ。「あなたの授業を査察ささつしますと書きましたが」
「ああ、うん」ハグリッドが明るく言った。「この場所がわかってよかった ほーれ、見てのとおり――はて、どうかな――見えるか 今日はセストラルをやっちょる――」
「え 何」アンブリッジ先生が耳に手を当て、顔をしかめて大声で聞き直した。「なんて言いましたか」
ハグリッドはちょっと戸惑とまどった顔をした。
「あー――セストラル」ハグリッドも大声で言った。「大っきな――あー――翼つばさのある馬だ。ほれ」
ハグリッドは、これならわかるだろうとばかり、巨大な両腕をパタパタ上下させた。アンブリッジ先生は眉まゆを吊つり上げ、ブツブツ言いながらクリップボードに書きつけた。「原げん始し的てきな……身み振ぶりによる……言葉に……頼らなければ……ならない」
「さて……とにかく……」ハグリッドは生徒のほうに向き直ったが、ちょっとまごついていた。「む……俺おれは何を言いかけてた」
「記き憶おく力りょくが……弱く……直前の……ことも……覚えて……いないらしい」アンブリッジのブツブツは、誰にも聞こえるような大きな声だった。ドラコ・マルフォイはクリスマスが一ヵ月早く来たような喜びようだ。逆にハーマイオニーは、怒りを抑おさえるのに真まっ赤かになっていた。
「あっ、そうだ」ハグリッドはアンブリッジのクリップボードをそわそわと見たが、勇敢ゆうかんにも言葉を続けた。「そうだ、俺が言おうとしてたのは、どうして群れを飼かうようになったかだ。うん。つまり、最初は雄おす一頭と雌めす五頭で始めた。こいつは」ハグリッドは最初に姿を現した一頭をやさしく叩たたいた。「テネブルスって名で、俺が特別かわいがってるやつだ。この森で生まれた最初の一頭だ――」
「ご存知ぞんじかしら」アンブリッジが大声で口を挟はさんだ。「魔法省はセストラルを『危き険けん生せい物ぶつ』に分類ぶんるいしているのですが」
ハリーの心臓が石のように重くなった。しかし、ハグリッドはクックッと笑っただけだった。
「セストラルが危険なものか そりゃ、さんざんいやがらせをすりゃあ、噛かみつくかもしらんが――」
「暴力の……行使を……楽しむ……傾向が……見られる」アンブリッジがまたしてもブツブツ言いながらクリップボードに走り書きした。
「そりゃ違うぞ――バカな」ハグリッドは少し心配そうな顔になった。「つまり、けしかけりゃ犬も噛みつくだろうが――だけんど、セストラルは、死とかなんとかで、悪い評ひょう判ばんが立っとるだけだ――こいつらが不吉ふきつだと思い込んどるだけだろうが わかっちゃいなかったんだ、そうだろうが」
アンブリッジは何も答えず、最後のメモを書き終えるとハグリッドを見上げ、またしても大きな声でゆっくり話しかけた。
「授業を普段どおり続けてください。わたくしは歩いて見回ります」アンブリッジは歩く仕種しぐさをして見せたマルフォイとパンジー・パーキンソンは、声を殺して笑いこけていた。
「生徒さんの間をね」アンブリッジはクラスの生徒の一人ひとりを指差した。「そして、みんなに質問をします」アンブリッジは自分の口を指差し、口をパクパクさせた。