「今朝、あなたの小屋に送ったメモは、受け取りましたか」アンブリッジは前と同じよ
ハグリッドはアンブリッジをまじまじと見ていた。まるでハグリッドには普通の言葉が通じないかのように、身み振ぶり手て振ぶりをしてみせるのはなぜなのか、さっぱりわからないという顔だ。ハーマイオニーはいまや悔くやし涙を浮かべていた。
「鬼婆ばばぁ、腹黒はらぐろ鬼婆ばばぁ」アンブリッジがパンジー・パーキンソンのほうに歩いて行ったとき、ハーマイオニーが小声こごえで毒づいた。「あんたが何を企たくらんでいるか、知ってるわよ。鬼、根性曲がりの性しょう悪わるの――」
「むむむ……とにかくだ」ハグリッドは何とかして授業の流れを取り戻そうと奮闘ふんとうしていた。
「そんで――セストラルだ。うん。まあ、こいつらにはいろいろええとこがある……」
「どうかしら」アンブリッジ先生が声を響ひびかせてパンジー・パーキンソンに質問した。「あなた、ハグリッド先生が話していること、理解できるかしら」
ハーマイオニーと同じく、パンジーも目に涙を浮かべていたが、こっちは笑いすぎの涙だった。クスクス笑いを堪こらえながら答えるので、何を言っているのかわからないほどだった。
「いいえ……だって……あの……話し方が……いつも唸うなってるみたいで……」
アンブリッジがクリップボードに走り書きした。ハグリッドの顔の、怪け我がしていないわずかな部分が赤くなった。それでも、ハグリッドは、パンジーの答えを聞かなかったかのように振舞ふるまおうとした。
「あー……うん……セストラルのええとこだが。えーと、ここの群れみてえにいったん飼かい馴ならされると、みんな、もう絶対道に迷うことはねえぞ。方向感覚抜群ばつぐんだ。どこへ行きてえって、こいつらに言うだけでええ――」
「もちろん、あんたの言うことがわかれば、ということだろうね」マルフォイが大きな声で言った。パンジー・パーキンソンがまた発ほっ作さ的てきにクスクス笑い出した。アンブリッジ先生はその二人には寛大かんだいに微笑ほほえみ、それからネビルに聞いた。
「セストラルが見えるのね、ロングボトム」
ネビルが頷うなずいた。
「誰が死ぬところを見たの」無む神しん経けいな調子だった。
「僕の……じいちゃん」ネビルが言った。
「それで、あの生物をどう思うの」
ずんぐりした手を馬のほうに向けてひらひらさせながら、アンブリッジが聞いた。セストラルはもうあらかた肉を食いちぎり、ほとんど骨だけが残っていた。
「んー」ネビルは、おずおずとした目でハグリッドをちらりと見た。
「えーと……馬たちは……ん……問題ありません……」
「生徒たちは……脅おどされていて……怖こわいと……正直に……そう言えない」アンブリッジはブツブツ言いながらクリップボードにまた書きつけた。
「違うよ」ネビルはうろたえた。「違う、僕、あいつらが怖くなんかない」
「いいんですよ」アンブリッジはネビルの肩をやさしく叩たたいた。そしてわかっていますよという笑顔を見せたつもりらしいが、ハリーにはむしろ嘲ちょう笑しょうに見えた。
「さて、ハグリッド」アンブリッジは再びハグリッドを見上げ、またしても大きな声でゆっくり話しかけた。「これでわたくしのほうはなんとかなります。査察ささつの結果をクリップボードを指差したあなたが受け取るのは自分の体の前で、何かを空中から取り出す仕種しぐさをした、十日後です」アンブリッジは短いずんぐり指を十本立てて見せた。それからニターッと笑ったが、緑の帽子ぼうしの下で、その笑いはことさらガマに似ていた。そしてアンブリッジは、意い気き揚々ようようと引き揚あげた。あとに残ったマルフォイとパンジー・パーキンソンは発作的に笑い転げ、ハーマイオニーは怒りに震ふるえ、ネビルは困惑こんわくした顔でおろおろしていた。