「お願い、行かないで」チョウはまた涙声になった。「こんなふうに取り乱して、本当にごめんなさい……そんなつもりじゃなかったの……」
チョウはまたヒクッとしゃくり上げた。真まっ赤かに泣き腫はらした目をしていても、チョウは本当にかわいい。ハリーは心しん底そこ惨みじめだった。「メリー・クリスマス」と言ってもらえたら、それだけで幸せだったのに。
「あなたにとってはどんなに酷むごいことなのか、わかってるわ」チョウはまた袖そでで涙を拭ぬぐった。
「私がセドリックのことを口にするなんて。あなたは彼の死を見ているというのに……。あなたは忘れてしまいたいのでしょう」
ハリーは何も答えなかった。たしかにそうだった。しかし、そう言ってしまうのは残酷ざんこくだ。
「あなたは、と、とってもすばらしい先生よ」チョウは弱々しく微笑ほほえんだ。「私、これまでは何にも失神しっしんさせられなかったの」
「ありがとう」ハリーはぎごちなく答えた。
二人はしばらく見つめ合った。ハリーは走って部屋から逃げ出したいという焼けるような思いとは裏腹うらはらに、足がまったく動かなかった。
「ヤドリギだわ」チョウがハリーの頭上を指差して、静かに言った。
「うん」ハリーは口がカラカラだった。「でもナーグルだらけかもしれない」
「ナーグルってなあに」
「さあ」ハリーが答えた。チョウが近づいてきた。ハリーの脳みそは失神術にかかったようだった。「ルーニーに、あ、ルーナに聞かないと」
チョウは啜すすり泣きとも笑いともつかない不ふ思し議ぎな声を上げた。チョウはますますハリーの近くにいた。鼻の頭のそばかすさえ数えられそうだ。
「あなたがとっても好きよ、ハリー」
ハリーは何も考えられなかった。ぞくぞくした感覚が体中に広がり、腕が、足が、頭が痺しびれていった。
チョウがこんなに近くにいる。睫毛まつげに光る涙の一粒ひとつぶ一粒が見える……。