「まあ、いいでしょう」ハーマイオニーは他た人にん行ぎょう儀ぎにそう言うと、また手紙に没頭ぼっとうした。「彼女を誘うチャンスはたくさんあるわよ」
「ハリーが誘いたくなかったらどうする」いつになく小賢こざかしい表情を浮かべて、ハリーを観察かんさつしていたロンが言った。
「バカなこと言わないで」ハーマイオニーが上うわの空で言った。「ハリーはずっと前からチョウが好きだったのよ。そうでしょ ハリー」
ハリーは答えなかった。たしかに、チョウのことはずっと前から好きだった。しかし、チョウと二人でいる場面を想像するときは、かならずチョウは楽しそうだった。自分の肩にさめざめと泣き崩くずれるチョウとは対たい照しょう的てきだった。
「ところで、その小しょう説せつ、誰に書いてるんだ」いまや床を引きずっている羊皮紙を覗き込みながら、ロンが聞いた。
ハーマイオニーは、慌てて紙をたくし上げた。
「ビクトール」
「クラム」
「ほかに何人ビクトールがいるって言うの」
ロンは何も言わずふて腐くされた顔をした。三人はそれから二十分ほど黙だまりこくっていた。ロンは何度もイライラと鼻を鳴らしたり、間違いを棒線ぼうせんで消したりしながら、「変へん身しん術じゅつ」のレポートを書き終え、ハーマイオニーは羊よう皮ひ紙しの端までせっせと書き込んでから、丁寧ていねいに丸めて封ふうをした。ハリーは暖炉だんろの火を見つめ、シリウスの頭が現れて、女の子について何か助言じょげんしてほしいと、そればかりを願っていた。しかし、火はだんだん勢いを失い、真まっ赤かな熾おき火もついに灰になって崩くずれた。気がつくと、談だん話わ室しつに最後まで残っているのは、またしてもこの三人だった。
「じゃあ、おやすみ」ハーマイオニーは大きな欠伸あくびをしながら、女じょ子し寮りょうの階段を上って行った。
「いったいクラムのどこがいいんだろう」ハリーと一いっ緒しょに男子寮の階段を上りながら、ロンが問い詰つめた。
「そうだな」ハリーは考えた。「クラムは年上だし……クィディッチ国こく際さいチームの選手だし……」
「うん、だけどそれ以外には」ロンがますます癪しゃくに障さわったように言った。「つまり、あいつは気難きむずかしいいやなやつだろ」
「少し気難しいな、うん」ハリーはまだチョウのことを考えていた。