「おい、ハリー」ロンが半はん信しん半はん疑ぎで言った。「君……君は夢を見てただけなんだ……」
「そうじゃない」ハリーは激はげしく否定ひていした。肝心かんじんなのはロンにわかってもらうことだ。
「夢なんかじゃない……普通の夢じゃない……僕がそこにいたんだ。僕は見たんだ……僕がやったんだ……」
シェーマスとディーンが何かブツブツ言うのが聞こえたが、ハリーは気にしなかった。額ひたいの痛みは少し引いたが、まだ汗びっしょりで熱があるかのように悪寒おかんが走った。ハリーはまた吐はきそうになった。ロンが飛び退のいて避よけた。
「ハリー、君は具合が悪いんだ」ロンが動揺どうようしながら言った。「ネビルが人を呼びに行ったよ」
「僕は病気じゃない」ハリーは咽むせながらパジャマで口を拭ぬぐった。震ふるえが止まらない。「僕はどこも悪くない。心配しなきゃならないのは君のパパのほうなんだ――どこにいるのか探さないと――ひどく出血してる――僕は――やったのは巨大な蛇へびだった」
ハリーはベッドから降おりようとしたが、ロンが押し戻した。ディーンとシェーマスはまだどこか近くで囁ささやき合っている。一分経たったのか、十分なのか、ハリーにはわからなかった。ただその場に座り込んで、震えながら、額ひたいの傷きず痕あとの痛みがだんだん引いていくのを感じていた……やがて、階段を急いで上がってくる足音がして、またネビルの声が聞こえてきた。
「先生、こっちです」
マクゴナガル先生が、タータンチェックのガウンを羽は織おり、あたふたと寝室に入ってきた。骨ばった鼻はな柱ばしらにメガネが斜めに載のっている。
「ポッター、どうしましたか どこが痛むのですか」
マクゴナガル先生の姿を見てこんなにうれしかったことはない。いまハリーに必要なのは、「不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だん」のメンバーだ。小うるさく世話を焼いて役にも立たない薬を処方しょほうする人ではない。
「ロンのパパなんです」ハリーはまたベッドに起き上がった。「蛇に襲われて、重態です。僕はそれを見てたんです」
「見ていたとは、どういうことですか」マクゴナガル先生は黒々とした眉まゆをひそめた。
「わかりません……僕は眠っていた。そしたらそこにいて……」
「夢に見たということですか」
「違う」ハリーは腹が立った。誰もわかってくれないのだろうか「僕は最初まったく違う夢を見ていました。バカバカしい夢を……そしたら、それが夢に割り込んできたんです。現実のことです。想像したんじゃありません。ウィーズリーおじさんが床で寝ていて、そしたら巨大な蛇へびに襲おそわれたんです。血の海でした。おじさんが倒れて。誰か、おじさんの居い所どころを探さないと……」
マクゴナガル先生は曲がったメガネの奥からハリーをじっと見つめていた。まるで、自分の見ているものに恐きょう怖ふを感じているような目だった。
「僕、嘘うそなんかついていない 狂ってない」ハリーは先生に訴うったえた。叫さけんでいた。「本当です。僕はそれを見たんです」
「信じますよ。ポッター」マクゴナガル先生が短く答えた。「ガウンを着なさい――校長先生にお目にかかります」