フィニアスの声には聞き覚えがある。いったいどこで聞いたのだろう しかし、ハリーが思い出す前に、壁かべの肖像画たちが轟々ごうごうたる非難ひなんの声を上げた。
「貴殿きでんは不ふ服ふく従じゅうですぞ」赤鼻あかはなの、でっぷりした魔法使いが、両手の拳こぶしを振り回した。「職しょく務む放ほう棄きじゃ」
「我々には、ホグワーツの現げん職しょく校長に仕つかえるという盟約めいやくがある」ひ弱そうな年老いた魔法使いが叫さけんだ。ダンブルドアの前ぜん任にん者しゃのアーマンド・ディペットだと、ハリーは知っていた。
「フィニアス、恥はじを知れ」
「私が説得せっとくしましょうか ダンブルドア」鋭するどい目つきの魔女が、生徒の仕し置おきに使うカバの木の棒ぼうではないかと思われる、異常に太い杖を持ち上げながら言った。
「ああ、わかりましたよ」フィニアスと呼ばれた魔法使いが、少し心配そうに杖つえに目をやった。「ただ、あいつがもう、私の肖しょう像ぞう画がを破は棄きしてしまったかもしれませんがね。なにしろあいつは、家族のほとんどの――」
「シリウスは、あなたの肖像画を処分しょぶんすべきでないことを知っておる」ダンブルドアの言葉で、とたんにハリーは、フィニアスの声をどこで聞いたのか思い出した。グリモールド・プレイスのハリーの寝室しんしつにあった、一見いっけん何の絵も入っていない額縁がくぶちから聞こえていたあの声だ。
「シリウスに伝言するのじゃ。『アーサー・ウィーズリーが重じゅう傷しょうで、妻、子供たち、ハリー・ポッターがまもなくそちらの家に到とう着ちゃくする』よいかな」
「アーサー・ウィーズリー負ふ傷しょう、妻子さいしとハリー・ポッターがあちらに滞在たいざい」フィニアスが気乗りしない調子で復ふく唱しょうした。「はい、はい……わかりましたよ……」