たちまち、ハリーの傷きず痕あとが灼しゃく熱ねつした。まるで傷口がまたパックリと開いたかのようだった――望んでもいないのにひとりでに、恐ろしいほど強きょう烈れつに、内側から憎にくしみが湧わき上がってきた。あまりの激はげしさに、ハリーはその瞬しゅん間かん、ただ襲しゅう撃げきすることしか考えられなかった――噛かみたい――二本の牙きばを目の前にいるこの男にグサリと刺さしてやりたい――。
「……三」
臍へその裏うらがぐいっと引っ張られるのを感じた。足下あしもとの床が消え、手がヤカンに貼はりついている。急速に前進しながら、互いに体がぶつかった。色が渦巻うずまき、風が唸うなる中を、前へ前へとヤカンがみんなを引っ張っていく……。やがて、膝ひざががくっと折れるほどの勢いで、ハリーの足が地面を強く打った。ヤカンが落ちてカタカタと鳴り、どこか近くで声がした。
「戻ってきた。血を裏切うらぎるガキどもが。父親が死にかけてるというのは本当なのか」
「出ていけ」別の声が吼ほえた。
ハリーは急いで立ち上がり、あたりを見回した。到とう着ちゃくしたのは、グリモールド・プレイス十二番地の薄暗うすぐらい地下の厨ちゅう房ぼうだった。明かりといえば、暖炉だんろの火と消えかかった蝋燭ろうそく一本だけだ。それが、孤独こどくな夕食の食べ残しを照らしていた。クリーチャーは、ドアから玄げん関かんホールへと出て行くところだったが、腰布こしぬのをずり上げながら振り返り、毒を含んだ目つきでみんなを見た。心配そうな顔のシリウスが、急ぎ足でやって来た。ひげも剃そらず、昼間の服装ふくそうのままだ。その上、マンダンガスのような、どこか酒臭さけくさい饐すえた臭いを漂ただよわせていた。
「どうしたんだ」ジニーを助け起こしながら、シリウスが聞いた。「フィニアス・ナイジェラスは、アーサーがひどい怪け我がをしたと言っていたが――」
「ハリーに聞いて」フレッドが言った。
「そうだ。俺おれもそれが聞きたい」ジョージが言った。
双子ふたごとジニーがハリーを見つめていた。厨房の外の階段で、クリーチャーの足音が止まった。
「それは――」ハリーが口を開いた。マクゴナガルやダンブルドアに話すよりずっと厄介やっかいだった。「僕は見たんだ――一種の――幻まぼろしを……」