シリウスの顔にわずかに残っていた血ちの気けがさっと消えた。一いっ瞬しゅん、フレッドをぶん殴なぐりそうに見えた。しかし、口を開いたとき、その声は決然けつぜんとして静かだった。
「辛つらいのはわかる。しかし、我々全員が、まだ何も知らないかのように行動しなければならないんだ。少なくとも、君たちの母さんから連れん絡らくがあるまでは、ここにじっとしていなければならない。いいか」
フレッドとジョージは、それでもまだ反はん抗こう的てきな顔だったが、ジニーは、手近の椅子に向かって二、三歩歩き、崩くずれるように座った。ハリーがロンの顔を見ると、ロンは頷うなずくとも肩をすくめるともつかないおかしな動きを見せた。ハリーとロンも座り、双子ふたごはそれからしばらくシリウスを睨にらみつけていたが、やがてジニーを挟はさんで座った。
「それでいい」シリウスが励はげますように言った。「さあ、みんなで……みんなで何か飲みながら待とう。『アクシオ バタービールよ、来い』」
シリウスが杖つえを上げて呪じゅ文もんを唱となえると、バタービールが六本、食料庫こから飛んできて、テーブルの上を滑すべり、シリウスの食べ残しを蹴け散ちらし、六人の前でぴたりと止まった。みんなが飲んだ。しばらくは暖炉だんろの火がパチパチ爆はぜる音と、瓶びんをテーブルに置くコトリという音だけが聞こえた。
ハリーは、何かしていないとたまらないので飲んでいただけだった。胃袋は恐ろしい、煮にえたぎるような罪ざい悪あく感かんで一いっ杯ぱいだった。みんながここにいるのは僕のせいだ。みんなまだベッドで眠っているはずだったのに。警報けいほうを発したからこそウィーズリーおじさんが見つかったのだと自分に言い聞かせても、何の役にも立たなかった。そもそもウィーズリー氏を襲おそったのは自分自身だという、厄介やっかいな事実からは逃のがれられなかった。
いい加減かげんにしろ。おまえには牙きばなんかない。ハリーは自分に言い聞かせ、落ち着こうとした。しかし、バタービールを持つ手が震ふるえていた。おまえはベッドに横になっていた。誰も襲っちゃいない……。
しかし、それならダンブルドアの部屋で起こったことは何だったのだ ハリーは自じ問もん自じ答とうした。僕は、ダンブルドアまでも襲いたくなった……。
ハリーは瓶をテーブルに置いたが、思わず力が入りビールがテーブルにこぼれた。誰も気がつかない。そのとき空中に炎が上がり、目の前の汚れた皿を照らし出した。みんなが驚おどろいて声を上げる中、羊よう皮ひ紙しが一巻ひとまき、ドサリとテーブルに落ち、黄金おうごんの不ふ死し鳥ちょうの尾お羽ば根ねも一枚落ちてきた。